美堂蛮(ねこ)

 「まず、シャワーを浴びてね。着替えは出しておくから、全部洗濯籠に入れてしまってかまわないわ」
 居心地良く散らかったマリーアの家につき、椅子に座りこもうとしたらそう言われた。
 まあ…確かにシャワーは浴びてぇかな。
 「着替えって、レースがビラビラついてたりするんじゃねぇだろうな?」
 着ねぇぞ、そんなもの。
 「あら、いやだ。………付いてないわよv」
 その間が、怪しいっつーの。
 まあ何にせよ、シャワー浴びるか。
 さっぱりして、置いてあった着替えを広げると、いつもの服と変わらなかった。
 ほっとしながら身につける…が。
 「おい、マリーア、ベルトくれ」
 オレのサイズじゃないのか、ウエストが緩すぎて落ちちまう。
 「え、だってぴったりでしょう?」
 「ぴったりじゃねぇよ、でかすぎる」
 「うそ!」
 ウソって…
 とんできたマリーアにウエストの余りを見せると、わめかれた。
 「なんで、たかだか2ヶ月と12日でこんなに痩せちゃうの!? 蛮ってば、ちゃんとご飯食べてないでしょう!」
 2か月前ってのは…前にここ来た時の話だよな…?
 あん時の体型で作ってあんのか。
 「別にあん時、採寸とかしなかったじゃねぇか」
 だったら、もともとぴったりじゃなく出来上がってるかもしれねぇだろ。
 と思ったんだが、マリーアは確信をもって首を横に振った。
 「甘いわね、蛮。お母さんの眼力をなめないでちょうだい。ちゃんと! あの時の体型にぴったりなように作っといたんだからv」
 でも、こんなに簡単に蛮が痩せちゃうなんて、予想外だったわ…と悔しげに言いながらベルトを出してくる。
 世の母親ってヤツは凄いんだな。






 椅子に座ると、野菜や謎のものがごろごろ入ったスープとパンが山盛りになった籠を出された。
 「こんな時間に、こんなに食わねぇよ」
 夜中でもねぇが、夕飯には遅すぎるぜ?
 「ダメ! せめてスープが飲み終わらないと、帰せないわ」
 「…わーったよ」
 別にこれくらい痩せたって死にゃしねぇんだから、そんな心配そうな顔しなくたっていいのにな。
 仕方がないというように食べ始めれば、いつもの笑顔に戻る。
 …心配しすぎなんだよ、オレなんかに、よ。
 「たまには用が無くても、銀ちゃんと一緒にご飯食べに来なさいな」
 「…気が向いたらな」
 銀次の名前に、マリーアと逢う前の不安を思い出しちまった。
 マリーアんとこから帰っても、男とシて、シャワー浴びて帰ってきたと思われんだろうな。ま、実際波児としてたわけだから、間違っちゃいねぇけど。
 別に…オレの素行の悪さは今更だ。銀次と逢う前からこうだし、銀次だってわかってる。
 なのに……
 何で考え出すと、こんなにも不安に胸が締め付けられるんだろう。
 「で、お母さんに何か相談することが、あるでしょう? 蛮」
 「…誰がお母さんだよ」
 さっきもんなこと言ってたが、一応突っ込んどく。
 「あら、私は蛮を、自慢の息子だと思ってるわよ?」
 前も言わなかったかしらv、ってそれは憶えてねぇけど、自称母親はよく言ってるよな。
 「何でも聞くわよ、愚痴でも惚気でもv」
 オレの目の前に座って、にこにことそんなことを言う。
 惚気なんか言う気はねぇけど……他に聞けるヤツもいねぇし、マリーアなら無駄に年食ってっから、なんかいい方法でも思いつくかもな。
 「…何か今、失礼なこと、考えなかった…?」
 「なぁ……人にす…嫌われないようにするには、どうしたらいいんだろうな…」
 人に好かれようなんて、ずっと前に諦めちまったから、もうやり方がわかんねぇよ。
 「人って、銀ちゃん?」
 「――っ、人は人だろ! 一般論だ!」
 「ああ、『一般論』、『一般論』ねv」
 ったく…そんなにバレバレかよ、ちくしょう。
 「そうねぇ…蛮はそのままでも、しばらく付き合えば人に嫌われたりはしないと思うけど…あえて言うなら、もうちょっとだけ素直になったら、みんなにもっと好かれると思うわ」
 素直に…か。それが出来りゃぁ…。
 「無理に自分を曲げる必要はないのよ? 蛮はそのままでも、すっごく魅力的だから。でも、相手を好きだなって思いが胸いっぱいになった時にでも、ちょっとそれを外に出せば、銀ちゃんは蛮をもっともっと好きでいてくれると思うわ」
 「…架空の相手に焼きもちとか、うざくねぇ?」
 「それだけ銀ちゃんを好きってことでしょう? 嬉しいじゃないv」
 まあ…確かに妬かれるのも悪くねぇ。
 素直に、ねぇ…。苦手だがなんとかやってみるか。
 「悩みが解消したなら、早く食べてお帰りなさいな。銀ちゃんが待ってるわよ」
 これはお土産ねvとマリーアが袋に入れてくれたパンを持って、オレは銀次の待つスバルへ戻った。



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☆☆☆




 凄いのは、世の母親ではなく、マリーアさんです、蛮ちゃん。
 凄くない母親もいっぱいいますorz
 まあそれはともかく。
 なんか、最初の方のマリーアさんと蛮ちゃんの会話書いてたら、楽しかったv
 他の人相手と違って、駆け引きとかが無いところが癒されるというかなんというか。

美堂蛮(ねこ)

 冗談じゃねぇと思った。
 銀次が他のヤツを抱くなんて、絶対に嫌だと。
 だけど…それに文句を言う資格は、オレにはねぇよな…。




 怒りにまかせて波児の所を飛び出したはいいが、このまま銀次の所に帰ってどうする?
 ふと冷静になって、足を止めると、オレは路地裏の壁に背中を預けた。
 アレは仮定の話だ。銀次が本当にそうしてるって話じゃねぇ。
 それでも、それを想像しただけでも、頭が沸騰するかと思うくらい、怒りが湧いた。
 絶対、絶対、嫌だ。相手が男でも女でも耐えられない。
 わかってる、勝手な話だ。オレは銀次が友達だと思ってるヤツ等にだって抱かれているのに。
 それでも銀次がオレにしているようなことを他のヤツにもしてると思うだけで…想像の相手を八つ裂きにしてやりたくなる。
 想像が現実にならないために、どうしたらいい…?
 波児が言ったように、オレが銀次だけ相手にしてりゃいいのか?
 本当に、それで?
 ずっと一緒に居て、銀次だけ見てりゃ、銀次もこれからもずっとオレだけを見ていてくれんのか?
 いつか…飽きられるんじゃねぇか…?
 そう考えて、ぞっとする。
 自分を卑下するつもりはねぇが、オレなんか多少頭の回転が速くて、バトルに強いだけだ。
 銀次のように、人を惹き付ける魅力なんか持ってねぇ。
 未だに、何で銀次がオレなんかをあんなに好きだって言ってくれるのかもわかんねぇ。
 オレの方がずっとずっと銀次に惹かれて、あの笑顔を向けられなくなったら生きていけねぇくらいなのに、銀次が言ってくれる十分の一も好きだと言えないひねた性格で。
 この体だって、普通に考えたら気持ちわりぃだろう。男なのに、男に抱かれなきゃ生きていけねぇなんて。
 でも、今更素直になんかなれねぇし、この体だって、自分で嫌でもどうしようもない。
 この眼だって……
 「あらー、やっぱり蛮だわv」
 眼を押さえて地面に座り込みかけた所に、聞き慣れた明るい声がかかる。
 「…マリーア?」
 いつもの、若作りというにもほどがある恰好でやってきた。
 マリーアが居るのは別にいいが、やっぱりってなんだよ。
 「もぅ、ダメよ、蛮ってば。その気がないなら、こんなに色気を振り撒いちゃ」
 軽く怒ったように言いながら、二つしかとまってない上にボタンをかけ違えて、適当もいいところになっているオレの服を直していく。
 「色気なんかねぇよ…」
 男のズボンの前が開いてようと、胸元も腹も見えてようと、たいしたこっちゃねぇだろう。
 「何言ってるの! 誘ってるとしか思えないわよ。現に、狙われてたわよ?」
 蛮ってば自分のことは全然わかってないんだから、と怒ったふりで指を突き付けてくる。
 「狙われてたって、誰にだよ?」
 「あっちの方にいたやんちゃそうな男の子達にね。気だるそうな美人がいるからみんなで遊ぼうって相談してたわ。もしかして、と思ってきてみたら、やっぱり蛮なんだもの」
 かわりに私がちょっと遊んであげたわvって…再起不能だな、そいつら。
 「うちにちょっと寄って行きなさいな。そのままじゃ…銀ちゃんの所に帰れないでしょう?」
 そう言って、今はシャツで見えなくなった胸元を突く。その下には紅い跡。
 ああ…そういや波児としたまま飛び出してきちまったんだっけか。
 オレはマリーアに誘われるままに歩きだした。



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☆☆☆




 四人目の蛮ちゃんの保護者、マリーアさん。
 いつも楽しげで、素敵ですv
 うちの基本設定(夏彦に云々)を作った頃にはまだ出てなかったので、マリーアさんと暮らした設定はないですが、原作では8歳でマリーアさんの所を飛び出したとか…無茶だ(−−;



 蛮ちゃんは自分が綺麗だとか色っぽいとか、そういう自覚はない気がします。
 男を誘う時は無意識…性質悪いなぁ(^^;
 身につけた知識とか戦闘能力とかは自信があると思うけど。
 そして、人を引き付ける魅力もないと思っている…ありありなのにね!!

王波児(ねこ)

 「お前さぁ…大丈夫なのか?」
 「…何がだよ?」
 事の後、ぼんやりと煙草をふかしている蛮に問いかけると、逆に聞き返された。
 「銀次だよ。浮気はいい加減にしとかないと、捨てられて泣いても、オレは仲裁しないぞ」
 まあ、こうやって相手しちまうオレが言うことでもないかもしれないが。
 本当に捨てられたら、泣くだけじゃ済まないぐらいハマってるのに、なんで浮気を繰り返すんだろうなぁ、こいつは。
 「…オレがこんななのは、今更だぜ? 銀次だって、わかってんだろ」
 わかってたって、嫌だろう。
 蛮のヤツ…もしかして想像した事ないのか? まあ、あんだけ追っかけられて執着されてれば、思いつきもしないか。
 「ちょっと想像してみろ、銀次がお前じゃないヤツを抱いてるところ」
 「銀次が…?」
 不審そうに首を傾げて、それでも宙を見つめて想像してみたのか。
 その表情が、すぅっと凍りついていく。
 「想像だけでも嫌だろう? わかったら、お前もやめとけ」
 って…?
 「蛮…?」
 火のついた煙草を持ったまま、よっぽどショックだったのか灰が落ちそうになっても動かない。
 とりあえず取り上げて揉み消すと、ようやく表情が動いた。
 「冗談じゃねぇよ!」
 叫んで、怒りも露わにベッドに拳を叩き込む。
 「ベッドにあたるな、壊れたらどうする」
 「銀次はオレのもんなんだよ! 銀次が他のヤツを相手にするなんて、絶対に、嫌だ!!」
 「そう思ったら…って、おい」
 銀次だって同じ気持ちなんだろうから浮気はやめろと諭す前に、蛮は適当に服を身につけると飛び出していっちまった。
 えー…と? もしかして、変に煽っただけで、まずいこと言っちまったのかな…?
 あの勢いのまま蛮が戻って、銀次と喧嘩でもしたら…やっぱり、オレのせいになるのか…?



続き→
☆☆☆




 波児は蛮ちゃんに説教できるめずらしい人間だと思ってます。
 他の相手に言われたら、「うるせぇ」で済ますけど、波児に言われたらやっぱりちょっと考えるんじゃないかと。
 まあ、うちの波児はちょっと情けなくて間抜けだけど(^^;
 いや、まあ、うん。うちの攻は基本的に情けないからね…。
 夏彦とか黒っぽい銀次はレアなタイプなのですよん。

スキンシップがすこしはげしいです(総受け)

 (ん・・・そろそろ、だな)
 自分の体に異変が起こる予兆を感じて、蛮は煙草をくわえると、ふいと歩き出した。
 銀次から離れるために。
 年に二回ほど訪れるこの時期になるといつも、蛮は銀次の前から姿を消し、過ぎると帰ってくる。
 それを銀次が不満に思わないはずがない。
 「蛮ちゃん」
 「………」
 呼び止められ、仕方なさそうに振り返る。
 熱を帯びた、いつもより鋭さのない蛮の目を見て、銀次は今回は消えられる前に間に合ったとほっとした。
 「蛮ちゃん、発情期…なんだよね」
 「…だったら、なんだよ?」
 「他の男のとこなんか、行かないでよ」
 「……今の状態のオレに、我慢しろって…?」
 「そんなこと言わないよ。オレと、しよう?」
 「オメーと?」
 何故だか考え込むような蛮に、銀次は煙草を取り上げて軽く口付けると、前から思っていた疑問をぶつけた。
 「ねぇ、何で発情期になるといなくなるの? オレとすれば問題ないじゃん?」
 蛮ちゃんとなら何回だってしたいしーと脳天気に言う銀次から煙草を取り戻し、深く吸い込む。
 しかしそれで体の熱が収まるわけもなく、それ一色に染まり出している思考もうまく働かず、遠まわしに言うのも面倒になった蛮はずっぱりと言い切った。
 「うぜぇから」
 「えええええええっ!? オレ、うざいの!?」
 蛮ちゃんひどいよぅ;;とタレて滂沱の涙を流す銀次を、そこがうぜぇとばかりに蹴り飛ばして、煙草を揉み消す。
 「オメー、オレがオメーとした後に他の男んとこ行こうとしたら、グダグダ言うだろうが? それがうぜぇんだよ」
 「言うに決まってるじゃん…蛮ちゃんが好きなんだからさぁ…」
 蹴り飛ばされたところをさすりながらえぐえぐ泣いていたが、ふと新たな疑問が湧きあがる。
 「でもさ? 何で他の人の所行くの? 蛮ちゃんは今、えっちしたいだけなんだよね?」
 「発情期なんだから、勃たねぇ男にゃ用はねぇだろ」
 「……つまり、オレが役に立たなくなったら、他の所に行くってこと?」
 「そうなるな」
 「なぁんだ〜」
 なら問題なしと全開の笑顔で銀次は言った。
 「じゃあ、オレがずっと蛮ちゃんを満足させられれば、全然問題ないじゃん?」
 「…させられんのかよ?」
 「オレ、体力にだけは自信あるもん!」
 知ってるでしょ?と笑う銀次に、まあいいかと首に腕を回しながらも、蛮は釘を刺すことを忘れなかった。
 「いいぜ? オメーが相手でも。ただし、条件が三つだ」
 「うんvv」
 見えない尻尾を思い切り振りながら、そのまま事に及びそうな銀次の後ろ髪を掴み、睨みつけるように視線を合わせる。
 「一つ、オメーが役に立たなくなったら、オレは別の男の所へ行く、そん時はグダグダ言うな。二つ、飯食ったり電気で回復すんのは無しだ。三つ、時期が終わったら戻ってくっから、オレを捜したりするんじゃねぇ。この三つを守れなかった時は、コンビ解散だと思え。わかったか?」
 「…ワカリマシタ…」
 冗談のかけらも混じらない眼差しに、破ったら本気でコンビを解散されると、銀次は蛮の言葉を頭に叩き込んだ。
 「…まぁ…」
 カチコチに固まって、言葉まで片言になってしまった銀次にくすりと笑って、蛮は一転、妖艶に囁きかけた。
 「オメーがオレを満足させりゃあ、何の問題もないわけだしな…? 楽しもうぜ…銀次。満足させて、くれんだろ…?」
 「うん……蛮ちゃん、大好きだよ…」
 聞き飽きるほどに聞いて、それでもその度に心を満たす甘い言葉。
 やはり銀次は自分の特別なのだと再認識しながらも、それは口に出さずに、蛮は銀次を抱きしめる腕に力を込めた。






 「蛮、居る!?」
 けたたましいベルの音を鳴らして、雪彦がHONKYTONKに飛び込んできた時、そこに居たのはいつものように暇そうに新聞を読んでいる波児と、タレたままスツールにうつ伏せになっている銀次だけだった。
 「いらっしゃい」
 「マスター、蛮は?」
 「蛮のヤツは少し前に来て、『コイツが電気食ったりしないように見張ってろ』って銀次を放り投げて、どっか行っちまったな」
 注文を聞く波児にいつものと答え、雪彦は銀次の隣に座った。
 「銀次くん、蛮はどこ行ったの?」
 「捜サナイヨウニ約束サセラレテイルンデ、知リマセン…」
 スツールに潰れたままタレているのでよくわからないが、声からすると落ち込んでいるのかもしれない。
 「そう…さっきから携帯に連絡してるんだけど、電源が切れちゃってるみたいなんだよね…」
 元の姿に戻らない銀次に、雪彦は小声でしかし確信を込めて聞いた。
 「銀次くんのその疲労と落ち込みっぷりってさ…蛮のせいだよね…?」
 「――――っ、知ってるの? 雪彦くん」
 「そりゃ、昔一緒に住んでたからね。でも…ああ、今回は間に合わなかったかぁ…残念」
 前回は間に合ったんだけどなぁなどと呟く雪彦に、銀次が嫌な眼を向ける。
 それににっこりと笑顔を返して、波児から受け取ったコーヒーにミルクを入れながら雪彦は言った。
 「でも銀次くん、この時期の蛮の相手を一人でするなんて、いくら君でも無理だよ」
 「…蛮ちゃんって、昔からあんなだった?」
 「すごかったよ。いつもは嫌がるばっかりなのに、この時期だけはすごい積極的で。僕たち総動員で相手して、何とか治めるって感じだったからねぇ」
 そのギャップがまた、良かったんだけど、とはこっそり呟いて。
 「銀次くんはこの時期の蛮としたのは初めて?」
 「うん…蛮ちゃん、毎回いなくなっちゃってたから」
 「そう…そうやって銀次くんが落ち込むのがわかってたから、あえていなくなってたのかもね」
 「…蛮ちゃんはオレがうざいから嫌だって言ってたけどね…」
 「まあ、それもあるかもしれないけど…ほら、蛮って素直じゃないから」
 相手のことを思っていても、素直にそう言えない性格なのは銀次も分かっているが。
 でも。
 「…くやしい…」
 約束したから引き止めるようなことはしなかったが、蛮の手を離さなければいけなかったことが、後姿を見送るしかできなかったことが悔しくてたまらない。
 拳を握り締める銀次に、同意するように雪彦は肩を叩いた。
 「銀次くん、疲れてるんだろう? 何か食べたら? おごるよ」
 「ありがとう、雪彦くん…って、オレ、蛮ちゃんにご飯食べるなって言われてるんだった!」
 「いや、それは銀次くんが体力回復しようとして食べまくるとツケがとんでもないことになるから、じゃないかな。まさか蛮だって、自分が帰ってくるまで銀次くんに飲まず食わずでいろ、とは言わないと思うよ?」
 雪彦が適当に頼んでくれたものを食べながら、次の発情期には蛮を無限城に連れ込んで、絶対手放さないようにしようと決意を固める銀次だった。






 「…はぁっ……っ…」
 達した後の心地よい疲労感に、うっとりと柔らかなベッドに身を預ける。
 汗ばんだ前髪を掻き揚げるこんな時でも冷たい手に、対極の温かな手の相棒を思い出し、蛮はくすりと笑みを漏らした。
 「どうしました…?」
 「いや…別になんでもねぇよ」
 (銀次のヤツ、今頃悔しがってんだろうなぁ…)
 そう思うと、つい口元が弛んでしまう。
 なんでもないと言いながらも、明らかな思い出し笑いに、あまり表情のない赤屍の顔に呆れたような不機嫌がにじんだ。
 「貴方という人は…こんな時でも私だけを見てはくれないのですね」
 蛮は甘えるように赤屍の首に腕を絡めると、熱に潤んだ瞳で艶やかに微笑んだ。
 「ちゃんと見てんぜ…おしゃべりはいらねぇから、もう一回…出来んだろ…?」
 「もちろん…あなたの望むだけ、差し上げますよ、美堂クン……」






 数日後、時期が終わり、満たされて満足気に戻ってきた蛮の後ろに、喰い尽された男たちの屍が累々とあったとかなかったとか。




☆☆☆




 何か妙に長くなってしまった…。
 最初に言っておきましょう。この話の設定は、すべて猛獣な蛮ちゃんのみのものです。
 いくらうちでも、普通の蛮ちゃんに発情期はありません(笑
 バネッチは自分の限界が見れたのかしらん…(w
 
 弥勒総動員。
 はじめコレ、「僕たち五人(除・緋影、奇羅々)で相手して蛮を治めた」って感じで考えてたんだけど…
 奇羅々は女性だし、緋影は蛮ちゃんをそういう対象に見てないから、って事で。
 でも、緋影の場合は、蛮ちゃんが望むならアリなのかなぁと。
 ということで、「総動員」に入ってるのはお好きな人数でどうぞ(笑

じぶんをしゅじんだとにんしきさせましょう(銀蛮)

 蛮ちゃんは獣っぽいと思う。
 悪い意味じゃなくて…なんていうのかな…人間とは違う感じ。
 士度の友達の動物たちとは違う、「動物」ではなく「獣」。
 言葉は通じる。でもどっか全然相容れないところがあって。
 絶対他人には従わない自由さ。とても惹かれるその自由さが、時々すごく憎らしくもなるけど。
 それでも惹かれてやまない…魅力的な獣。





 「ダメでしょ? 蛮ちゃんはオレのものなんだから、他の男と遊んだりしちゃ」
 「…オレが誰と何しようが、オレの勝手だろうが」
 ぞくぞくする。かけられた手錠が、蛮の理性を奪っていく。
 快楽を期待し始める体を無視するように、手錠の存在を認識しないようにしながら、強気に言葉を紡ぐ。
 しかし、静かに怒っている銀次がそれを許すはずもなく。
 鎖を強く引かれ否応無く、手首に手錠がかかっているのだと、そうしたら次には快感が与えられるのだと、夏彦に教えられた体が火照り出す。
 「はっ…あ・・・っ」
 「勝手じゃないよ。手錠かけられただけで熱くなっちゃうこのいやらしい体はオレのなんだから、他の男に触らせたりしちゃダメ」
 「好きでなってんじゃねぇよ! それに弱いってわかっててやってんだから、卑怯じゃねぇか!」
 「卑怯?」
 潤み始めた瞳で、それでもまだ快楽に流されずに睨みつけてくる蛮に、銀次はゆっくりと蛮の体に手を這わせながら、静かに呟いた。
 「相手の弱点を突くのは常套手段でしょ。卑怯とか言われたくないな」
 「…っ……くっ…」
 ごく緩やかな、愛撫とも言えないような刺激さえも、快感を期待し餓え始めた体は敏感に感じ取り、体内に熱を溜めていく。
 「それにこうでもしなきゃ、蛮ちゃん、憶えないでしょ? ダメだよって、もう何度も言ってるのに」
 「っ…オレの、主はオレだ。誰と何をするかは、オレが決める」
 特に感じる場所に触れられているわけではないのに、銀次の指が動くたびに震えてしまう。
 話しながらも、ずっと意識は刺激を与えてくれる指先に集中している。
 「ちょっと触っただけなのに、もうこんな?」
 不意に、硬くなりはじめた胸の突起を抓まれ、体が跳ね上がる。
 「ああっ! は、ぁっ・・・」
 「いいの? いやらしいね…でも好きだよ」
 ひとしきり弄んで、手を離す。与えられた強い刺激に、蛮の理性が急速に崩壊していく。
 「…銀次ぃ…」
 抓まれた胸の先が痺れるようで、早く早く次の刺激が欲しくてたまらない。
 それ以外のことはもう考えられなかった。
 身を捩りながら、ねだるように名を呼ぶ蛮に、銀次は場違いなほどにっこりと笑って聞いた。
 「蛮ちゃんの主人は、誰?」
 「………オメー、だ…っ」
 蛮にはそう答える以外の道はなかった。そう言わなければ最悪、刺激を与えられては放置、を気が狂うまで繰り返されるかもしれない。
 「よく言えましたv もう忘れちゃダメだからね?」
 満足そうにそう言って、快楽を待ちわびている蛮に、銀次は望むものを与えた。




☆☆☆




 銀次、ちょっと黒め。最初のころの受けっぽさはどこへ行ったやら。いや、なくなっていいんだけど。
 うちで「猛獣」と言ったら、ねこ蛮ちゃん(笑
 自由気ままで、気が向けば相手してもらえるけど、機嫌を損ねたら食い殺されかねない。
 普段はそこまで強烈でもないんだけど、たまにはそういう蛮ちゃんもいいな〜と、このお題を選んでみました。
 どこまでそんな蛮ちゃんが書けるやら。



 手錠について。これって、キャラプロフィールの所に書くべきか悩んだんだけど…いいやここで。
 別にうさぎ蛮ちゃんでもろ手錠の話を書いてるんで、そっちに書いてもいいけど、そっちはいつ出来上がるやら…なので(^^; だって、エロメインなんだもん…。
 うちの蛮ちゃんにとって手錠は、パブロフの犬。ベルを鳴らしてご飯、の代わりに、手錠をかけてえっち、を夏彦が繰り返した結果、手錠をかけられると体が快楽を待ち受ける状態に(−−;
 しかも、手に掛けられちゃうと、おもちゃだろうとなんだろうと「壊せない」という暗示入り。
 手錠をかけられる=さんざんえっちされる、なので、うさぎさんは軽い恐慌状態に。ねこさんはパニックにはならないけど、一方的に好き勝手弄ばれるイメージが強いので、嫌い。
 これを知っているのは弥勒だけ。銀次が知ってる理由は…いつか出来上がる(であろう)手錠の話を乞うご期待!(自分の首絞めてるな…

弥勒緋影(うさぎ)

 『…っ……』
 「…蛮…?」
 反射的に名を呼んでから、居るわけがないと思う。
 ここは屋敷だ。蛮がここに帰ってくるはずがない。
 しかし、気配…ではないが、感じる。
 蛮が一人で苦しんでいるような気がする。
 それ以上は考えず、夜着からいつもの服に着替え、荷物を担いだ。




 「え・・・っ、緋影…?」
 いつも車を止めているという公園で気配を探ると、天野銀次とはかなり離れたところに蛮の気配を感じる。
 近づけば、煙草の煙が漂う中、物陰に蛮が蹲っていた。
 「久しいな」
 「ああ…仕事帰りなのか?」
 この格好のせいか、そう聞いてくる。
 よっぽどのことがない限り、我らはいつも得物を手放すことはないが、蛮が知るはずもないな。
 「いや、蛮が泣いている気がしたのでな」
 「…オレが泣いてる気がしたから、わざわざ来てくれたのか…?」
 「そうだ」
 「……緋影の気のせいだ。泣いてなんかねぇよ」
 「そうか、ならいい」
 確かに泣いてはいないようだ。苦しそうなのは感じるが。
 蛮の苦しみを取り除いてやりたい。が、聞いたところで素直に話すほど、もう蛮も子供ではない。勿論、蛮が話すなら解決できるように導いてやりたいが。
 ならばせめて、安らかな眠りだけでも。
 「今宵は天野銀次の元へ帰るのか?」
 その名に、びくりと反応が返る。…ということは、蛮の苦しみの元は天野銀次なのか…?
 違うのならよし。だがもしそうならば、どうしてくれよう…等と私が考えているなど知る由もなく、蛮はゆるく首を振ると呟いた。
 「たぶん…帰らねぇ」
 「他に行くあては」
 「ねぇよ」
 「ならば、私と来るか? 蛮」
 こんなところで一人膝を抱えて夜明けを待つ必要はない。
 わずかに逡巡した後、蛮は頷いた。




 屋敷には帰りたくないだろうと、適当なホテルをとった。
 風呂で温まったせいか、蛮の雰囲気も和らいで、ほっとする。
 「緋影は入らねぇの?」
 「私は眠るところだったのでな、すでに屋敷で入った」
 「そっか」
 相変わらず生乾きの髪のままでいる蛮の頭を拭いてやると、くすぐったそうに首をすくめる。
 こうしていると昔に戻ったような気がするな。
 「緋影さぁ…寝るとこだったのに、わざわざ来てくれたんだ」
 乾いた髪から、以前より柔らかさのなくなった頬に手を滑らせると、蛮は私の手の上に手をあて、嬉しそうに微笑んだ。
 「相変わらず優しいよな、緋影って」
 「お前にだけだ、蛮」
 そう、蛮だけだ。損得もなく護ってやりたいと願うのは。
 なあ、蛮。お前にとって夏彦に拾われたことは不幸の始まりだったかもしれん。
 だが私は、その点だけは信じてもいない神とやらに感謝したい。
 己の技を磨くことにしか興味がなかった私がこんなにも心奪われる存在に出逢わせてくれたことを。
 「もう休め。明日は早めに戻るのだろう?」
 「…ああ、そうだな…」
 声に苦さが混じる。が、先程出逢った時よりはマシのようだ。
 何かが蛮の慰めになったならいいが。
 蛮が私の横に潜り込みながら聞いてくる。
 「緋影、いつ帰るんだ…?」
 「お前が望むだけ、居よう」
 「じゃあ、朝飯も一緒に食える?」
 「蛮がそう望むなら」
 頷いてやれば、嬉しそうに笑う気配がする。
 蛮が笑う。それだけで私の胸も暖かくなるのだと、お前は知らぬだろうな。
 知る必要はない。私はただ、蛮に幸せでいてほしいだけなのだから。
 「おやすみ、緋影」
 そう呟いて、いつものように私の服の裾を握りしめたまま、目を閉じる。
 治らない癖さえ愛しく思いながら、髪にそっと口付けた。
 「おやすみ、蛮…良い夢を」



☆☆☆



 谷山さんの「人生は一本の長い煙草のようなもの」を聞いてて思いついた話なんだけど…書いてみたらまるっきり「子守歌」だよ、これ(^^;
 なんでだ…。



 苦しんでる蛮ちゃんを誰かが助けてくれたらいいな、と思って。
 でも兄ちゃんいないし、波児は蛮ちゃんが「助けて」って言えば助けてくれるだろうけど、言わない限りはわざわざ来るタイプでもないし。
 ということで、緋影に。
 しかし、口調が…もっと堅かったっけ?(−−;

感想もどき1

銀「蛮ちゃんと夏彦ってさ〜、なんか似てるよね」
蛮「…そうか?」
銀「うん。蛮ちゃんが髪下して、サングラスかけてないと結構似てる」
雪「近しい家柄だし、何代か前に血が混じってるのかもしれないね。まあ、夏彦より蛮の方がずっと美人だけど」
銀「逆に雪彦くんと夏彦はあんまり似てないね?」
雪「7人、誰も似てないけどね(笑)。アニメでは僕たち二人しか出てこないけど。顔はともかく、中身は結構夏彦と似てるんだけどね」
銀「へぇ〜、どんなところが?」
蛮「…(嫌な予感)聞くな、銀次」
雪「そうだなぁ…例えば…(メガネが光って、笑みの種類が変わる)ちょっと可哀想でもやっぱり弥勒の家から蛮を逃がさない方が良かったなぁとか、蛮に女の子の服を着せて色々してみたかったなぁとか、手錠だけじゃなくて縄で縛ったりもして、蛮にいろんな習慣をつけたかったなぁとか、蛮におもちゃ入れたまま出掛けたら楽しかったんだろうなぁとか、いろいろいろいろ思うところが、かな(にーっこり)」
蛮「…………(顔面蒼白)」
銀「夏彦もそんなこと思ってたのか〜…」
蛮「(よかった…夏彦が実行に移す前に消えてくれて、本当によかった……)」
銀「まあ、気持ちはわかるけどね」
蛮「わかんのかよっ!」
銀「だって、楽しそうだもん。ねぇ?」
雪「楽しそうだよね」
蛮「楽しそうじゃねぇっ!! 大体…(墓穴にならなそうな突込みどころを検索)…こんな、ごつごつした女なんかいねぇだろ! 女物なんか似合わねぇよ」
雪「うーん…(蛮を上から下まで眺めて)まあねぇ…」
銀「(同じように眺める)そうだねぇ……」
蛮「(ちょっとホッとして)だろ?」
雪・銀「蛮(ちゃん)ほどの美人は、女の子でもそうそういないよねぇv」
蛮「(……も、やだ…この言葉の通じねぇヤツら、なんとかしてくれ……邪馬人ぉ…)」



☆☆☆



邪馬人に助けを求めたところで、同じような答えが返ってくると思うけどね(笑
ちなみに夏彦に言えば、真顔で同じ返事が。
こいつらって(w


蛮ちゃんと夏彦が似てるっていうのは、私じゃなくてキャラデザさんの感想ですが。
まあ似てるかなぁ。目元をしっかり描き込んだら、似てないんだろうけど。蛮ちゃんの目はすっごく綺麗だもんね〜。