スキンシップがすこしはげしいです(総受け)
(ん・・・そろそろ、だな)
自分の体に異変が起こる予兆を感じて、蛮は煙草をくわえると、ふいと歩き出した。
銀次から離れるために。
年に二回ほど訪れるこの時期になるといつも、蛮は銀次の前から姿を消し、過ぎると帰ってくる。
それを銀次が不満に思わないはずがない。
「蛮ちゃん」
「………」
呼び止められ、仕方なさそうに振り返る。
熱を帯びた、いつもより鋭さのない蛮の目を見て、銀次は今回は消えられる前に間に合ったとほっとした。
「蛮ちゃん、発情期…なんだよね」
「…だったら、なんだよ?」
「他の男のとこなんか、行かないでよ」
「……今の状態のオレに、我慢しろって…?」
「そんなこと言わないよ。オレと、しよう?」
「オメーと?」
何故だか考え込むような蛮に、銀次は煙草を取り上げて軽く口付けると、前から思っていた疑問をぶつけた。
「ねぇ、何で発情期になるといなくなるの? オレとすれば問題ないじゃん?」
蛮ちゃんとなら何回だってしたいしーと脳天気に言う銀次から煙草を取り戻し、深く吸い込む。
しかしそれで体の熱が収まるわけもなく、それ一色に染まり出している思考もうまく働かず、遠まわしに言うのも面倒になった蛮はずっぱりと言い切った。
「うぜぇから」
「えええええええっ!? オレ、うざいの!?」
蛮ちゃんひどいよぅ;;とタレて滂沱の涙を流す銀次を、そこがうぜぇとばかりに蹴り飛ばして、煙草を揉み消す。
「オメー、オレがオメーとした後に他の男んとこ行こうとしたら、グダグダ言うだろうが? それがうぜぇんだよ」
「言うに決まってるじゃん…蛮ちゃんが好きなんだからさぁ…」
蹴り飛ばされたところをさすりながらえぐえぐ泣いていたが、ふと新たな疑問が湧きあがる。
「でもさ? 何で他の人の所行くの? 蛮ちゃんは今、えっちしたいだけなんだよね?」
「発情期なんだから、勃たねぇ男にゃ用はねぇだろ」
「……つまり、オレが役に立たなくなったら、他の所に行くってこと?」
「そうなるな」
「なぁんだ〜」
なら問題なしと全開の笑顔で銀次は言った。
「じゃあ、オレがずっと蛮ちゃんを満足させられれば、全然問題ないじゃん?」
「…させられんのかよ?」
「オレ、体力にだけは自信あるもん!」
知ってるでしょ?と笑う銀次に、まあいいかと首に腕を回しながらも、蛮は釘を刺すことを忘れなかった。
「いいぜ? オメーが相手でも。ただし、条件が三つだ」
「うんvv」
見えない尻尾を思い切り振りながら、そのまま事に及びそうな銀次の後ろ髪を掴み、睨みつけるように視線を合わせる。
「一つ、オメーが役に立たなくなったら、オレは別の男の所へ行く、そん時はグダグダ言うな。二つ、飯食ったり電気で回復すんのは無しだ。三つ、時期が終わったら戻ってくっから、オレを捜したりするんじゃねぇ。この三つを守れなかった時は、コンビ解散だと思え。わかったか?」
「…ワカリマシタ…」
冗談のかけらも混じらない眼差しに、破ったら本気でコンビを解散されると、銀次は蛮の言葉を頭に叩き込んだ。
「…まぁ…」
カチコチに固まって、言葉まで片言になってしまった銀次にくすりと笑って、蛮は一転、妖艶に囁きかけた。
「オメーがオレを満足させりゃあ、何の問題もないわけだしな…? 楽しもうぜ…銀次。満足させて、くれんだろ…?」
「うん……蛮ちゃん、大好きだよ…」
聞き飽きるほどに聞いて、それでもその度に心を満たす甘い言葉。
やはり銀次は自分の特別なのだと再認識しながらも、それは口に出さずに、蛮は銀次を抱きしめる腕に力を込めた。
「蛮、居る!?」
けたたましいベルの音を鳴らして、雪彦がHONKYTONKに飛び込んできた時、そこに居たのはいつものように暇そうに新聞を読んでいる波児と、タレたままスツールにうつ伏せになっている銀次だけだった。
「いらっしゃい」
「マスター、蛮は?」
「蛮のヤツは少し前に来て、『コイツが電気食ったりしないように見張ってろ』って銀次を放り投げて、どっか行っちまったな」
注文を聞く波児にいつものと答え、雪彦は銀次の隣に座った。
「銀次くん、蛮はどこ行ったの?」
「捜サナイヨウニ約束サセラレテイルンデ、知リマセン…」
スツールに潰れたままタレているのでよくわからないが、声からすると落ち込んでいるのかもしれない。
「そう…さっきから携帯に連絡してるんだけど、電源が切れちゃってるみたいなんだよね…」
元の姿に戻らない銀次に、雪彦は小声でしかし確信を込めて聞いた。
「銀次くんのその疲労と落ち込みっぷりってさ…蛮のせいだよね…?」
「――――っ、知ってるの? 雪彦くん」
「そりゃ、昔一緒に住んでたからね。でも…ああ、今回は間に合わなかったかぁ…残念」
前回は間に合ったんだけどなぁなどと呟く雪彦に、銀次が嫌な眼を向ける。
それににっこりと笑顔を返して、波児から受け取ったコーヒーにミルクを入れながら雪彦は言った。
「でも銀次くん、この時期の蛮の相手を一人でするなんて、いくら君でも無理だよ」
「…蛮ちゃんって、昔からあんなだった?」
「すごかったよ。いつもは嫌がるばっかりなのに、この時期だけはすごい積極的で。僕たち総動員で相手して、何とか治めるって感じだったからねぇ」
そのギャップがまた、良かったんだけど、とはこっそり呟いて。
「銀次くんはこの時期の蛮としたのは初めて?」
「うん…蛮ちゃん、毎回いなくなっちゃってたから」
「そう…そうやって銀次くんが落ち込むのがわかってたから、あえていなくなってたのかもね」
「…蛮ちゃんはオレがうざいから嫌だって言ってたけどね…」
「まあ、それもあるかもしれないけど…ほら、蛮って素直じゃないから」
相手のことを思っていても、素直にそう言えない性格なのは銀次も分かっているが。
でも。
「…くやしい…」
約束したから引き止めるようなことはしなかったが、蛮の手を離さなければいけなかったことが、後姿を見送るしかできなかったことが悔しくてたまらない。
拳を握り締める銀次に、同意するように雪彦は肩を叩いた。
「銀次くん、疲れてるんだろう? 何か食べたら? おごるよ」
「ありがとう、雪彦くん…って、オレ、蛮ちゃんにご飯食べるなって言われてるんだった!」
「いや、それは銀次くんが体力回復しようとして食べまくるとツケがとんでもないことになるから、じゃないかな。まさか蛮だって、自分が帰ってくるまで銀次くんに飲まず食わずでいろ、とは言わないと思うよ?」
雪彦が適当に頼んでくれたものを食べながら、次の発情期には蛮を無限城に連れ込んで、絶対手放さないようにしようと決意を固める銀次だった。
「…はぁっ……っ…」
達した後の心地よい疲労感に、うっとりと柔らかなベッドに身を預ける。
汗ばんだ前髪を掻き揚げるこんな時でも冷たい手に、対極の温かな手の相棒を思い出し、蛮はくすりと笑みを漏らした。
「どうしました…?」
「いや…別になんでもねぇよ」
(銀次のヤツ、今頃悔しがってんだろうなぁ…)
そう思うと、つい口元が弛んでしまう。
なんでもないと言いながらも、明らかな思い出し笑いに、あまり表情のない赤屍の顔に呆れたような不機嫌がにじんだ。
「貴方という人は…こんな時でも私だけを見てはくれないのですね」
蛮は甘えるように赤屍の首に腕を絡めると、熱に潤んだ瞳で艶やかに微笑んだ。
「ちゃんと見てんぜ…おしゃべりはいらねぇから、もう一回…出来んだろ…?」
「もちろん…あなたの望むだけ、差し上げますよ、美堂クン……」
数日後、時期が終わり、満たされて満足気に戻ってきた蛮の後ろに、喰い尽された男たちの屍が累々とあったとかなかったとか。
☆☆☆
何か妙に長くなってしまった…。
最初に言っておきましょう。この話の設定は、すべて猛獣な蛮ちゃんのみのものです。
いくらうちでも、普通の蛮ちゃんに発情期はありません(笑
バネッチは自分の限界が見れたのかしらん…(w
弥勒総動員。
はじめコレ、「僕たち五人(除・緋影、奇羅々)で相手して蛮を治めた」って感じで考えてたんだけど…
奇羅々は女性だし、緋影は蛮ちゃんをそういう対象に見てないから、って事で。
でも、緋影の場合は、蛮ちゃんが望むならアリなのかなぁと。
ということで、「総動員」に入ってるのはお好きな人数でどうぞ(笑