美堂蛮(ねこ)

 冗談じゃねぇと思った。
 銀次が他のヤツを抱くなんて、絶対に嫌だと。
 だけど…それに文句を言う資格は、オレにはねぇよな…。




 怒りにまかせて波児の所を飛び出したはいいが、このまま銀次の所に帰ってどうする?
 ふと冷静になって、足を止めると、オレは路地裏の壁に背中を預けた。
 アレは仮定の話だ。銀次が本当にそうしてるって話じゃねぇ。
 それでも、それを想像しただけでも、頭が沸騰するかと思うくらい、怒りが湧いた。
 絶対、絶対、嫌だ。相手が男でも女でも耐えられない。
 わかってる、勝手な話だ。オレは銀次が友達だと思ってるヤツ等にだって抱かれているのに。
 それでも銀次がオレにしているようなことを他のヤツにもしてると思うだけで…想像の相手を八つ裂きにしてやりたくなる。
 想像が現実にならないために、どうしたらいい…?
 波児が言ったように、オレが銀次だけ相手にしてりゃいいのか?
 本当に、それで?
 ずっと一緒に居て、銀次だけ見てりゃ、銀次もこれからもずっとオレだけを見ていてくれんのか?
 いつか…飽きられるんじゃねぇか…?
 そう考えて、ぞっとする。
 自分を卑下するつもりはねぇが、オレなんか多少頭の回転が速くて、バトルに強いだけだ。
 銀次のように、人を惹き付ける魅力なんか持ってねぇ。
 未だに、何で銀次がオレなんかをあんなに好きだって言ってくれるのかもわかんねぇ。
 オレの方がずっとずっと銀次に惹かれて、あの笑顔を向けられなくなったら生きていけねぇくらいなのに、銀次が言ってくれる十分の一も好きだと言えないひねた性格で。
 この体だって、普通に考えたら気持ちわりぃだろう。男なのに、男に抱かれなきゃ生きていけねぇなんて。
 でも、今更素直になんかなれねぇし、この体だって、自分で嫌でもどうしようもない。
 この眼だって……
 「あらー、やっぱり蛮だわv」
 眼を押さえて地面に座り込みかけた所に、聞き慣れた明るい声がかかる。
 「…マリーア?」
 いつもの、若作りというにもほどがある恰好でやってきた。
 マリーアが居るのは別にいいが、やっぱりってなんだよ。
 「もぅ、ダメよ、蛮ってば。その気がないなら、こんなに色気を振り撒いちゃ」
 軽く怒ったように言いながら、二つしかとまってない上にボタンをかけ違えて、適当もいいところになっているオレの服を直していく。
 「色気なんかねぇよ…」
 男のズボンの前が開いてようと、胸元も腹も見えてようと、たいしたこっちゃねぇだろう。
 「何言ってるの! 誘ってるとしか思えないわよ。現に、狙われてたわよ?」
 蛮ってば自分のことは全然わかってないんだから、と怒ったふりで指を突き付けてくる。
 「狙われてたって、誰にだよ?」
 「あっちの方にいたやんちゃそうな男の子達にね。気だるそうな美人がいるからみんなで遊ぼうって相談してたわ。もしかして、と思ってきてみたら、やっぱり蛮なんだもの」
 かわりに私がちょっと遊んであげたわvって…再起不能だな、そいつら。
 「うちにちょっと寄って行きなさいな。そのままじゃ…銀ちゃんの所に帰れないでしょう?」
 そう言って、今はシャツで見えなくなった胸元を突く。その下には紅い跡。
 ああ…そういや波児としたまま飛び出してきちまったんだっけか。
 オレはマリーアに誘われるままに歩きだした。



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☆☆☆




 四人目の蛮ちゃんの保護者、マリーアさん。
 いつも楽しげで、素敵ですv
 うちの基本設定(夏彦に云々)を作った頃にはまだ出てなかったので、マリーアさんと暮らした設定はないですが、原作では8歳でマリーアさんの所を飛び出したとか…無茶だ(−−;



 蛮ちゃんは自分が綺麗だとか色っぽいとか、そういう自覚はない気がします。
 男を誘う時は無意識…性質悪いなぁ(^^;
 身につけた知識とか戦闘能力とかは自信があると思うけど。
 そして、人を引き付ける魅力もないと思っている…ありありなのにね!!