美堂蛮(ねこ)
「まず、シャワーを浴びてね。着替えは出しておくから、全部洗濯籠に入れてしまってかまわないわ」
居心地良く散らかったマリーアの家につき、椅子に座りこもうとしたらそう言われた。
まあ…確かにシャワーは浴びてぇかな。
「着替えって、レースがビラビラついてたりするんじゃねぇだろうな?」
着ねぇぞ、そんなもの。
「あら、いやだ。………付いてないわよv」
その間が、怪しいっつーの。
まあ何にせよ、シャワー浴びるか。
さっぱりして、置いてあった着替えを広げると、いつもの服と変わらなかった。
ほっとしながら身につける…が。
「おい、マリーア、ベルトくれ」
オレのサイズじゃないのか、ウエストが緩すぎて落ちちまう。
「え、だってぴったりでしょう?」
「ぴったりじゃねぇよ、でかすぎる」
「うそ!」
ウソって…
とんできたマリーアにウエストの余りを見せると、わめかれた。
「なんで、たかだか2ヶ月と12日でこんなに痩せちゃうの!? 蛮ってば、ちゃんとご飯食べてないでしょう!」
2か月前ってのは…前にここ来た時の話だよな…?
あん時の体型で作ってあんのか。
「別にあん時、採寸とかしなかったじゃねぇか」
だったら、もともとぴったりじゃなく出来上がってるかもしれねぇだろ。
と思ったんだが、マリーアは確信をもって首を横に振った。
「甘いわね、蛮。お母さんの眼力をなめないでちょうだい。ちゃんと! あの時の体型にぴったりなように作っといたんだからv」
でも、こんなに簡単に蛮が痩せちゃうなんて、予想外だったわ…と悔しげに言いながらベルトを出してくる。
世の母親ってヤツは凄いんだな。
椅子に座ると、野菜や謎のものがごろごろ入ったスープとパンが山盛りになった籠を出された。
「こんな時間に、こんなに食わねぇよ」
夜中でもねぇが、夕飯には遅すぎるぜ?
「ダメ! せめてスープが飲み終わらないと、帰せないわ」
「…わーったよ」
別にこれくらい痩せたって死にゃしねぇんだから、そんな心配そうな顔しなくたっていいのにな。
仕方がないというように食べ始めれば、いつもの笑顔に戻る。
…心配しすぎなんだよ、オレなんかに、よ。
「たまには用が無くても、銀ちゃんと一緒にご飯食べに来なさいな」
「…気が向いたらな」
銀次の名前に、マリーアと逢う前の不安を思い出しちまった。
マリーアんとこから帰っても、男とシて、シャワー浴びて帰ってきたと思われんだろうな。ま、実際波児としてたわけだから、間違っちゃいねぇけど。
別に…オレの素行の悪さは今更だ。銀次と逢う前からこうだし、銀次だってわかってる。
なのに……
何で考え出すと、こんなにも不安に胸が締め付けられるんだろう。
「で、お母さんに何か相談することが、あるでしょう? 蛮」
「…誰がお母さんだよ」
さっきもんなこと言ってたが、一応突っ込んどく。
「あら、私は蛮を、自慢の息子だと思ってるわよ?」
前も言わなかったかしらv、ってそれは憶えてねぇけど、自称母親はよく言ってるよな。
「何でも聞くわよ、愚痴でも惚気でもv」
オレの目の前に座って、にこにことそんなことを言う。
惚気なんか言う気はねぇけど……他に聞けるヤツもいねぇし、マリーアなら無駄に年食ってっから、なんかいい方法でも思いつくかもな。
「…何か今、失礼なこと、考えなかった…?」
「なぁ……人にす…嫌われないようにするには、どうしたらいいんだろうな…」
人に好かれようなんて、ずっと前に諦めちまったから、もうやり方がわかんねぇよ。
「人って、銀ちゃん?」
「――っ、人は人だろ! 一般論だ!」
「ああ、『一般論』、『一般論』ねv」
ったく…そんなにバレバレかよ、ちくしょう。
「そうねぇ…蛮はそのままでも、しばらく付き合えば人に嫌われたりはしないと思うけど…あえて言うなら、もうちょっとだけ素直になったら、みんなにもっと好かれると思うわ」
素直に…か。それが出来りゃぁ…。
「無理に自分を曲げる必要はないのよ? 蛮はそのままでも、すっごく魅力的だから。でも、相手を好きだなって思いが胸いっぱいになった時にでも、ちょっとそれを外に出せば、銀ちゃんは蛮をもっともっと好きでいてくれると思うわ」
「…架空の相手に焼きもちとか、うざくねぇ?」
「それだけ銀ちゃんを好きってことでしょう? 嬉しいじゃないv」
まあ…確かに妬かれるのも悪くねぇ。
素直に、ねぇ…。苦手だがなんとかやってみるか。
「悩みが解消したなら、早く食べてお帰りなさいな。銀ちゃんが待ってるわよ」
これはお土産ねvとマリーアが袋に入れてくれたパンを持って、オレは銀次の待つスバルへ戻った。
←戻る
☆☆☆
凄いのは、世の母親ではなく、マリーアさんです、蛮ちゃん。
凄くない母親もいっぱいいますorz
まあそれはともかく。
なんか、最初の方のマリーアさんと蛮ちゃんの会話書いてたら、楽しかったv
他の人相手と違って、駆け引きとかが無いところが癒されるというかなんというか。