風鳥院花月(ねこ)

 「美堂くんのお好きな体位は何ですか?」
 「・・・・・・はぁ?」
 質問に、らしくない間抜けな返事が返ってくる。
 まあ、自分でも唐突な質問だとは思うけど。
 「んだよ、そりゃ」
 「ただのアンケートですから、お気になさらずに」
 「変なやつ。…好きな体位、ねぇ……」
 胡乱げな顔で言いきって、それでも一応考えてくれる。
 まあ聞かなくても予測してる答えはあるけど。
 でも返ってきた答えは。
 「別になんでもかまわねぇけど…バックかな。楽だし、相手の顔も見たくねぇし、こっちも見られたくねぇし。キスもしたくねぇからな」
 …意外。と思ったのが顔に出たらしい。
 「意外かよ?」
 「…正直に言えば、意外ですね」
 「オレは何が好きだと思ったんだ?」
 「何ってわけじゃないですけど…美堂君はバックなんか屈辱的で嫌がるかとは思いました」
 後半は本当。
 「男に突っ込まれるだけで十分屈辱的なんだから、体位がどうだろうとたいして変わらねぇな。だったら、楽に早く終わった方がいいだろ」
 そう言い放つ様は本当にどうでもよさそうで。
 単に性欲を満たすための作業のよう。もしくは商売と割り切った男娼か。
 …聴いてると、それほど割り切ってるとも思えないんだけど。
 と、美堂くんがくくっと笑って覗き込んできた。
 「なーんか、『納得いきません』みたいな顔してやがんな?」
 「いえ…銀次さんが聞いたらどう思うかな、と思って」
 思いっきり信じられないような顔をするのは、想像に難くない。
 「言ってみりゃいいじゃねぇか」
 「いいんですか?」
 「オレは別に何も困らねぇし」
 まあ、オレが銀次には言うなっつったところで、オメーは言いたきゃ言うだろうしな。っていうのは、確かにそうなんだけど。
 でも…「キスが嫌い」…?
 美堂くんって、絶対キスが好きだと思ってたのに…。
 聞いてみなきゃわからないもんだなぁ。



☆☆☆



 なんで「雷蛮書きたい!」っていっといて、花月なんだか(^^;
 いやまあ、いつものことですが。
 雷様の話も考えてますが、ちょっと長くなりそうかなぁとか。
 次は多分、この話の続き。

天野銀次(ねこ)

 「蛮ちゃん……」
 投げ出された蛮ちゃんの素足に縋り付く。
 「蛮ちゃん、オレのものになって…オレだけのものに」
 蛮ちゃんに『お願い』する。
 同情でもいい。蛮ちゃんがオレのことを『かわいそうなやつ』と思ってもいい。
 情けない。それでもいい。
 プライドなんか、どうでもいい。そんなの捨てて、蛮ちゃんが手に入るなら。
 「…オメーのもんに…?」
 「うん」
 「オメーだけのもんに?」
 「うん」
 「いいぜ?」
 「え…」
 絶対無理だと思ってたから、驚いて顔をあげた。
 蛮ちゃんは笑ってるけど、からかってる風でもない。
 「オレだけのものになってくれるの?」
 この、誰にも縛られない自由な蛮ちゃんが、本当に?
 オレが信じられないような顔をしているからか、蛮ちゃんは面白そうに笑って、瞳をきらめかせた。
 「当然、条件はあっけどな」
 「…蛮ちゃんを縛らない、とか…?」
 「ちげーよ、逆だ、逆」
 なんでどいつもこいつも逆に勘違いするんだかなって呟きは、誰のことを指してるのかはわからないけど。
 逆…?
 「オレはな、執着されんのが好きなんだよ。オレのことを『特別』だと思わないヤツに興味はねぇ」
 オレからすると、蛮ちゃんのことを特別だと思わない人なんかいるわけないと思うけど。
 こんなに…綺麗で強くて、魔的なほど魅惑的なのに。
 「だから、オレが欲しいなら…」
 サングラスをずらして、間近で邪眼をかけるかのように見つめてくる紫の瞳。言葉を紡ぐ唇。伸ばされる指。
 すべてに力があるようで…目が離せない。
 「がんじがらめに束縛しろ。オレが好きなら、その執着を見せつけろ。オレがどこに行こうと、誰と寝ようと、諦めねぇで見捨てねぇで追い続ける限り…」
 にやりと笑う、悪魔みたいに綺麗な笑顔。
 「オレはオメーのもんだ」
 「…こんなに、こんなにオレは蛮ちゃんが好きなのに…」
 細い体を逃がさないように抱きしめる。
 ずっとずっと、こうやって抱きしめて離さないでいられたらいいのに。
 「これ以上好きになったら、オレ、おかしくなっちゃうよ」
 「いいじゃねぇか、おかしくなれよ」
 口付けて、吐息のように囁いてくる。
 「…オレが好きで好きでおかしくなるようなヤツ…嫌いじゃねぇぜ」
 ああ…だから蛮ちゃんはあの不動も嫌いじゃないんだね。
 オレもいつかああなるのかな…もうそれでもかまわない。
 どうなろうと、蛮ちゃんを諦めたり手離したりすることなんか出来やしないんだから。
 「うん、わかった。蛮ちゃんが逃げても逃げても追い続けて、絶対捕まえて縛りつけるから。覚悟してて」
 「ああ…待ってんぜ」
 うっとりと微笑む蛮ちゃんに、思いを込めて深く口付けた。




 カララーン♪
 「波児さん、蛮ちゃんいるーっ!?」
 ベルの音を響かせて、HONKYTONKに飛び込みながら聞くと、波児さんは言い難そうに呟いた。
 「あー、蛮のやつはなぁ………」
 「…また誰かとでかけちゃった?」
 「…笑師、だったかな。サングラスかけた関西訛りのある奴と」
 「笑師? めずらしいな」
 笑師じゃ、無限城には…いかないな。どこ探せばいいんだろ…。
 「ありがとう、波児さん」
 とりあえず店を飛び出そうとしたオレを、波児さんの声が引き止める。
 「銀次、蛮はああいう奴なんだから、追いかけ続けるとかえって逃げるんじゃないか?」
 「違うよ、波児さん、蛮ちゃんは追い続けなきゃ、ダメなんだ」
 きっと帰ってくる、なんて信じて待ってたら、蛮ちゃんはオレのものじゃなくなっちゃう。
 「早く見つけて捕まえなきゃ、だって蛮ちゃんはオレのものだもん」
 待ってて、蛮ちゃん、すぐに見つけ出すから。
 見つけたらお仕置きして、それから何度も何度も好きだって繰り返してあげる。
 だって、蛮ちゃんはオレのものなんだもんね?



☆☆☆



すっごい久しぶりに書きました。
最初の方は2007年の12月に書いてたようです(^^;
三年以上も寝かしといたのか…。


「愛しいなら執着を見せつけて」っぽいところは、「magnet」から。
今、逆転裁判3をやり直してるせいか、一か所蛮ちゃんのセリフがゴドー検事っぽい…(^^;;
ゴドー検事、良いよなぁ…時々わけわからん所とか、コーヒー飲みまくりな所とか(笑
しかし毎回思うけど、ブランクがあると文章が安定しないし、書くのが遅くなる…。


あ、そういえば今日はホワイトデー。
バレンタイン・ホワイトデーネタも考えてたんだけど…いつか書けるかなぁ。

美堂蛮(過去)(うさぎ)

 「俺はもう長くない」
 そんな言葉を夏彦から聞くなんて想像もしたことなかったから、オレは心底びっくりした。
 だって、あの夏彦が、だぞ…?
 「夏彦…?」
 「十年後には、俺は確実に存在しないだろうな」
 「そうねぇ、あと五、六年ってとこかしらね?」
 裸でいる時に奇羅々に代わられるといつもは目のやり場に困んだけど、今日はそんなことを気にする余裕もない。
 「…五、六年後に何かあんのか?」
 「あるかもしれないし、ないかもしれないわね」
 「意味がわかんねぇよ…」
 「我等弥勒は…」
 緋影が現れて、そっと頭を撫でてから解説してくれる。
 「ずっと七人のままではいられない。その時がきたら、統合者一人に統合される」
 「その時…?」
 「それは人によるが…成人する頃に統合されることが多いようだ」
 「私たちの場合は、夏彦が強すぎたせいか、今まで統合されないでいたけど、ずっとってわけにはいかないでしょうねぇ」
 夏彦たちが一人になる…?
 『その時』が来たら、夏彦も緋影も奇羅々も消えて…
 「…統合者って、誰だ?」
 「僕だよ、蛮」
雪彦が現れて、軽く口付ける。
 「その時が来たら、この体は僕だけのものになるんだ。兄さんたちは消えるわけじゃないけど、僕の中に溶けて、もう個人としては現れなくなる。それからは僕がずっと、蛮を愛して護っていくからね」
 「………」
 雪彦…だけになる……夏彦がいなくなる……
 「どうしたの? 蛮。妙な顔して…僕が統合者じゃ、気に入らない?」
 何も言わないオレを、雪彦が覗き込んでくる。
 「いや、そんなんじゃねぇけど…」
 「ないけど?」
 「夏彦が…いなくなるって、想像つかねぇ…」
 「あっはははっ、わかるわかる!」
 突然、奇羅々が大笑いで出てくる。
 「殺したって、蛮を置いては死にそうにないもんねぇ」
 「だが、これは弥勒のさだめ」
 「…緋影、も…?」
 この抱きしめてくれる優しい腕も…温もりもみんな?
 「ああ、蛮を雪彦に任せるのは心配だが…私も消える」
 「ひどいよ、緋影兄さん。僕だってちゃんと蛮を護っていけるよ!」
 「力の問題ではない。お前と夏彦は、本質がとてもよく似ている…それが蛮にとってあだになるのではないかと、心配なのだ」
 「俺を選べ…蛮」
 「え…?」
 夏彦に押し倒される。
 「夏彦を選ぶ?」
 「そうだ。お前が愛するただ一人の相手に、俺を選べ。他の誰でもなく、俺の中の他の6人ですらなく、『弥勒夏彦』というこの人格、ただ一人を」
 見慣れた夏彦の顔。
 オレの邪眼を綺麗だと言ってくれて、恐れることなく見返してくる強い瞳。
 夏彦は、強い。
 こんなに強いのに…『その時』が来たら、本当に消えてしまうんだろうか…。
 「選んだら…どうなるんだ?」
 「お前が俺を選ぶなら…俺は弥勒のさだめすら覆して、お前のそばに居続ける」
 「夏彦、何言うんだい! そんなの無理だよ、統合者じゃないのに…っ」
 「蛮、俺を選べ」
 「夏彦……」
 統合者のはずの雪彦すら押し込めて、夏彦は繰り返す。
 「俺だけを、一生愛すると誓え。そうすれば…俺はずっとそばにいて、お前だけを愛してやる」
 「………」
 夏彦が言い切るなら、それは必ず達成されるだろう。
 夏彦を選べば、オレはこのままずっと…。
 「選ぶだけで、いいのか…?」
 「そうだ」
 夏彦が、とんっとオレの心臓の上に人差し指を当てる。
 「―――っ」
 「『その時』が来た時、お前のここに俺だけが居れば、それでいい」
 「……なつ…ひこ……」
 「俺を選べ…」
 誓いのようなキスを受けながら、オレはその時が来たら夏彦を選ぶんだろうかと考えていた。



 結局オレは、夏彦を選べなかった。
 ただ一人の相手に銀次を選び、あの体は統合者の雪彦のものになった。



 オレは―――――――間違ったんだろうか――――。




☆☆☆



最初の9行目辺りまでは、この前の話と同じくらいに書いていて、それからどれだけほっといたんだ…(−−;
まあ、書きかけがなんとか形になって、よかったです。
蛮ちゃんが夏彦を選んでたら、絶対雪彦は負けてたと思う…。
というよりも、まず弥勒の家から逃げ出すことが無いんだろうから、邪馬人兄ちゃんと会うことも銀次と会うこともなく、一生……うわぁ(−−;;

この三つ目で終わる予定だったんですが、もうちょっと短いのが続きます。
どんなカプを書いても、私は結局銀蛮に着地するんだよねぇ(^^;
…と思ったんですが、一年も放置しているうちに何を書こうと思っていたんだか忘れてしまった…(汗
どう纏めようと思ってたんだろう…(−−;

美堂蛮(うさぎ)

 あの戦いで、弥勒は統合されて、「七人の弥勒」は「弥勒雪彦」になった。
 消えたわけじゃないが、優しかった緋影もいろいろかまってくれた奇羅々も雪彦の一部になり、その姿を現すことはなくなった。
 あんなにオレに執着していた夏彦も…また。



 「…………」
 ココニイルノハユキヒコデ、ナツヒコニハニドトナラナイ。
 そうなのだと頭ではわかってる。弥勒は統合されたら統合者一人になる。以前にいた人格は姿を現さなくなる。
 7人の中で一番強くて、他の人格を押さえ込むほどだった夏彦だって同じ事。
 わかっているのに…オレはまだ信じられないでいる。
 あの夏彦が…消えてしまったなんて。
 「……?」
 目の前で眠っている雪彦を起こさないように、小さく呼びかけてみる。
 夏彦は…現れない。
 本当に…? 本当に、消えちまったのか……?
 オレが雪彦に触られても、怒らねぇの?
 さんざんオレの体を好きにしたじゃねぇか。
 こんな体にした責任、とってくれんだろ?
 「……なつひこ」
 オレが…銀次を選んだから…?
 夏彦を選ばなかったから、消えちまったのか…?
 オレがただ一人の相手に夏彦を選んでいたら、雪彦でなく夏彦がここにいたんだろうか。
 あの時言っていたように、弥勒のさだめすら覆して、オレの側に。
 「…オレの…せいなのか……?」
 「違う」
 「――――っ…雪彦……」
 短く否定されベッドに押し付けられて、一瞬期待したが、やっぱり夏彦じゃなかった。
 「蛮のせいじゃない。夏彦たちが消えることは、生まれた時から決まっていたことなんだ。蛮が望んでも…望まなくても」
 見下ろす雪彦が苦しそうなのに、メガネかけてない雪彦の顔見るのは久しぶりだななんて思ってしまうオレは、どこか麻痺しているんだろうか。
 「でも、僕がいるから。僕が夏彦の分まで、ずっと蛮を護って愛していくから。だから、蛮―――」
 雪彦は好きだ。抱きしめられても嫌悪感がない。
 でも。
 「雪彦……ごめん」
 雪彦を夏彦のかわりにするなんてできない。
 他の誰でも。銀次でも、夏彦を喪ったことでできたオレの中の穴を埋める事はできないだろう。



 夏彦は、オレの――――――。



☆☆☆



やっぱり、あれだけ執着してた蛮ちゃんを置いて、うちの夏が消えるとは思えない…。
でも、邪馬人兄ちゃんが死んでるのが当たり前のように、原作終了後の話には夏はいません。
次は↑で蛮ちゃんが言っている「あの時」の話。
まだ弥勒の家に軟禁されてたときの話です。

…最後の「オレの―――」の「―」のところには何が入るんだろう?とか、私が言っちゃいけないですが(^^;
蛮ちゃんにとって夏彦ってなんだろう…。

弥勒雪彦(うさぎ)

 あの戦いで、僕たちは統合されて、七人で共有していたこの体は僕だけのものになった。
 消えたわけではないけれど、緋影兄さんも奇羅々姉さんも僕の中に溶け込み、個人として現れることはなくなった。
 夏彦も、また。



 カララン♪
 「あ、雪彦君。こんにちは〜」
 「…よう」
 HonkyTonkのドアを開けると、挨拶する前に銀次君が目敏く見つけて声をかけてくれる。
 わずかに遅れて、蛮の声。
 挨拶をくれる一瞬前、僕の姿を映した瞳が揺れる。
 その揺らぎが…僕を不安にさせる。
 蛮にとって、統合者は僕ではなく、夏彦であってほしかったのではないか、と。
 「こんにちは。これ、よかったら」
 銀次君に土産の箱を渡す。
 「え、お菓子?」
 「うん、シュークリームなんだけど、たくさんあるからよかったらウェイトレスの子達にも」
 「わぁ〜い、ありがとう、雪彦君! あ、蛮ちゃんも食べる?」
 「いらねぇ」
 「そっか。夏実ちゃん、レナちゃん、シュークリームだって〜」
 そう呼びながら、銀次君はテーブル席の方に行ってしまった。
 わずかに考えてから、蛮から一つ離れた席に座る。
 なんとなく、蛮の隣には座れなかった。
 こんな気持ちのままでは…。
 「体はもう平気なのか?」
 僕のほうを見ないまま、蛮がそう聞いてくる。
 「うん…時々仕事もしてるしね」
 護り屋の仕事はほとんど夏彦の名前で取ってたから、夏彦が姿を現さなくなって仕事は減ったけど、そんなに必死に仕事しなくちゃいけないわけでもないし。
 一つずつこなしていけば信用はできて仕事も増えるってわかってるから、心配はしてない。
 「そっか………」
 …いつも以上に蛮の歯切れが悪い。
 なんだろう…?
 「……なあ、雪彦……」
 「なんだい?」
 自分で呼びかけたくせにまだためらって、それでもようやく小さな声で蛮は言った。
 「…今度、雪彦んちに行ってもいいか…?」
 「…………」
 ああ、やっぱり蛮は夏彦がいなくなったことが信じられなくて、確かめずにはいられないんだね。
 「…その前に、一つ聞かせて」
 一つだけ、聞かせてほしい。
 例えそれが、どう自分を誤魔化しても優しい嘘にしか聞こえなかったとしても、蛮がくれた言葉を胸に、僕はこれから生きていくから。
 「蛮は……統合者が僕でよかったと思ってる…?」
 「ああ…オレは雪彦が統合者でよかったと思ってるぜ…?」
 「ありがとう…。家にはいつでもおいで、蛮ならいつだって歓迎だから」
 その言葉だけでいい。例え嘘でも「蛮がそう言ってくれた」それだけで。
 僕はその言葉を抱きしめて、これからずっと蛮を護って生きていくよ。



☆☆☆



とうとう書いてしまいました、原作が終わった後設定の話。
うちの場合、夏彦はかなり蛮ちゃんに影響を持っている人間なので、やっぱり消えちゃったらアレだろうなぁと。
とりあえず、三話でまとまる予定。

美堂蛮(ねこ)

★H描写あり 注意






































 セックスなんか、誰としたって変わらねぇ。


 ま、よっぽど下手な奴やこっちを痛めつけるのが好きな奴は別として、慣れてる奴ならそれなりに気持ちいい。

 夏彦だって猿回しだって弦巻きだって、同じこと。違いなんざ、ほんの少しだ。

 それこそ、不動だって。

 誰とだって変わらない。




 なのに。




 「…蛮ちゃん……」

 「……っ」

 かすれた声で名を呼ばれ、ぞくりと肌が粟立つ。

 銀次の声が、視線が、オレを甘く追い詰めていく。

 「くっ、あ…ああっ・・・」

 劣情をそそる水音を立てて、銀次の指がオレの中をかき混ぜる。

 こんな真似されたって、他の奴なら挑発するくらいの余裕はあるのに、銀次が相手だと感じ過ぎて、爪を立てて声をあげることしか出来ない。

 「―――っ」

 ぬるりと濡れた指が引き抜かれ、腰を抱え上げられる。

 「も、いいよね…そんないい声あげられたら、オレ、もうもたないよ」

 どきどきする。

 もう数え切れないほど繰り返した行為なのに、銀次に抱かれる時はいつも、心臓が壊れそうなほど。

 返事の代わりに首にしがみつき、深く口付ける。

 それを了解と取って、ローションでぬるぬるになっているそこから銀次が押し入ってきた。

 「―――っく、あっあぁっ」

 ―――熱くて、苦しくて、気持ちがいい―――

 なんでこんな…相手が「銀次」ってだけでこんな・・・・・・・・

 「っぎん・・・っじ…」

 「蛮ちゃん、蛮ちゃんっ」

 思うさま揺さぶられて、かき回されて、頭が真っ白になっていく。

 何も考えられなくなっていく中で、オレを貫く銀次自身と抱きしめる腕だけが確かで―――――

 セックスなんか、誰とだって変わらない。

 銀次以外なら、誰とだって。




☆☆☆




以前表の下弦で書いた、「銀次とするときはすっごく感じてる」という話の続き(?)。

しかし、なんだか文が淡々としてますね(^^;

「触れられれば誰が相手でもそれなりに気持ちいいけど、気持ちが伴えばもっといい」という話でした。

月夜

 満月。HONKYTONKから最近の寝床までの短い帰り道。

 いつも通り、くわえ煙草でズボンのポケットに両手を突っ込み、シャツの裾をひらめかせながら先を歩く蛮の姿が。
 なんだか。
 「蛮ちゃん」
 「あん?」
 暗い小さな公園で、満月の明るい月光に照らされたその姿が。なんだか。
 「手、繋いでいい?」
 「はぁ?」
 眉を顰めて銀次を顧みる表情も見慣れたものなのに。
 「なんか…蛮ちゃん、消えちゃいそうなんだもん」
 蛮が消える理由なんか無い。
 ただ、夏の夜の熱気と、明るすぎる月明かりに照らされた姿にちょっと不安を掻き立てられただけ。
 それは銀次にもわかっている。
 だから、手を握りたかった。
 例え蛮がここから消えてしまうとしても、蛮が行く先まで、自分も一緒に行けるように。
 「…ばーか、甘えんな」
 一瞬立ち止まって、頭の隅を掠めたが言えるはずもない言葉を飲み込むと、蛮はそう言い捨てて、さっきまでより早足で歩き出した。
 蛮が素直に手を差し出すような性格ではないと重々承知のはずなのに、銀次は小走りで後を追いながら抗議する。
 「いいじゃん、手繋ぐくらいさ〜」
 「オレは繋ぎたくねぇ」
 「キスしようとか、ここでえっちしたいとか言ってるわけじゃないんだし」
 「当たりめーだっ」
 「あ、そういえば昼間頼まれた煙草、まだ渡してなかったね。はい」
 突然の話題変更に一瞬戸惑いはしたが、回りのいい頭はそういえばあの後ごたごたして受け取ってなかったなとスムーズに思い出し、納得した上で声をかけられれば、受け取ろうと素直に手が出てしまう。
 にこっと笑った銀次に、あ、と思った時には時既に遅く、がっしりと手を握られてしまっていた。
 「銀次っ」
 「はい、蛮ちゃんv」
 手を抜こうと暴れる蛮をものともせず、笑顔で手を握り続けながら、銀次は差し出した煙草を蛮の胸ポケットに滑り込ませた。
 「帰ろう、蛮ちゃんv」
 「オメーがさっきから邪魔してんだろうがっ」
 「えー、邪魔なんかしてないよ、手を繋いで帰ろうって言っただけじゃん」
 「オメーの手は、熱くて嫌なんだよ、離せっ」
 「オレは蛮ちゃんの手、冷たくて気持ちいいから離さない〜v」
 振り解こうとしても離さないし、銀次の笑顔を見ているとなんだか脱力してくる。
 「…はぁ……も、好きにしろ」
 「うんv」
 えへへ〜と本当に嬉しそうに笑いながら、蛮の手を握り締めて、今度は銀次が先を歩く。
 後をついて歩きながら、握られた手を見つめて、蛮は銀次にわからないように小さく苦笑した。
 こういう、時々強引に自分を求める所が嬉しいと思ってしまうのだから、自分に勝ち目なんかないのだ。
 そう、この自分をどこまでも求めてくれる温かい手と、他の何にも代えがたい笑顔を捨てて、一体どこへ消えるというのだろう。
 ここ以外に、銀次のそば以外に自分が行く場所などどこにもないのに。
 (そんなこと、絶対言ってやらねぇけどな)
 「あれ? 蛮ちゃん、なんか楽しそう」
 「あ? 別にそんなことねぇぜ?」
 そう言いながらも、蛮は楽しそうに微笑んだ。



☆☆☆



まだエイプリルフールネタかよっ(泣
…ということで、やっとこさっとこ差し替えてみました…はう〜。
もう一つ考えたメアドネタよりは短く書けるだろうと思って書き始めたんですが…思ったより長くなってしまいました。
銀次は…時々、いらないところで頭が回るようです(笑
やっぱり優しいだけじゃだめですよねぇ…強引さがあってこそ、求められてる気がすると思うのです。
まあ、程度の問題はあるけど(^^;