美堂蛮(過去)(うさぎ)

 「俺はもう長くない」
 そんな言葉を夏彦から聞くなんて想像もしたことなかったから、オレは心底びっくりした。
 だって、あの夏彦が、だぞ…?
 「夏彦…?」
 「十年後には、俺は確実に存在しないだろうな」
 「そうねぇ、あと五、六年ってとこかしらね?」
 裸でいる時に奇羅々に代わられるといつもは目のやり場に困んだけど、今日はそんなことを気にする余裕もない。
 「…五、六年後に何かあんのか?」
 「あるかもしれないし、ないかもしれないわね」
 「意味がわかんねぇよ…」
 「我等弥勒は…」
 緋影が現れて、そっと頭を撫でてから解説してくれる。
 「ずっと七人のままではいられない。その時がきたら、統合者一人に統合される」
 「その時…?」
 「それは人によるが…成人する頃に統合されることが多いようだ」
 「私たちの場合は、夏彦が強すぎたせいか、今まで統合されないでいたけど、ずっとってわけにはいかないでしょうねぇ」
 夏彦たちが一人になる…?
 『その時』が来たら、夏彦も緋影も奇羅々も消えて…
 「…統合者って、誰だ?」
 「僕だよ、蛮」
雪彦が現れて、軽く口付ける。
 「その時が来たら、この体は僕だけのものになるんだ。兄さんたちは消えるわけじゃないけど、僕の中に溶けて、もう個人としては現れなくなる。それからは僕がずっと、蛮を愛して護っていくからね」
 「………」
 雪彦…だけになる……夏彦がいなくなる……
 「どうしたの? 蛮。妙な顔して…僕が統合者じゃ、気に入らない?」
 何も言わないオレを、雪彦が覗き込んでくる。
 「いや、そんなんじゃねぇけど…」
 「ないけど?」
 「夏彦が…いなくなるって、想像つかねぇ…」
 「あっはははっ、わかるわかる!」
 突然、奇羅々が大笑いで出てくる。
 「殺したって、蛮を置いては死にそうにないもんねぇ」
 「だが、これは弥勒のさだめ」
 「…緋影、も…?」
 この抱きしめてくれる優しい腕も…温もりもみんな?
 「ああ、蛮を雪彦に任せるのは心配だが…私も消える」
 「ひどいよ、緋影兄さん。僕だってちゃんと蛮を護っていけるよ!」
 「力の問題ではない。お前と夏彦は、本質がとてもよく似ている…それが蛮にとってあだになるのではないかと、心配なのだ」
 「俺を選べ…蛮」
 「え…?」
 夏彦に押し倒される。
 「夏彦を選ぶ?」
 「そうだ。お前が愛するただ一人の相手に、俺を選べ。他の誰でもなく、俺の中の他の6人ですらなく、『弥勒夏彦』というこの人格、ただ一人を」
 見慣れた夏彦の顔。
 オレの邪眼を綺麗だと言ってくれて、恐れることなく見返してくる強い瞳。
 夏彦は、強い。
 こんなに強いのに…『その時』が来たら、本当に消えてしまうんだろうか…。
 「選んだら…どうなるんだ?」
 「お前が俺を選ぶなら…俺は弥勒のさだめすら覆して、お前のそばに居続ける」
 「夏彦、何言うんだい! そんなの無理だよ、統合者じゃないのに…っ」
 「蛮、俺を選べ」
 「夏彦……」
 統合者のはずの雪彦すら押し込めて、夏彦は繰り返す。
 「俺だけを、一生愛すると誓え。そうすれば…俺はずっとそばにいて、お前だけを愛してやる」
 「………」
 夏彦が言い切るなら、それは必ず達成されるだろう。
 夏彦を選べば、オレはこのままずっと…。
 「選ぶだけで、いいのか…?」
 「そうだ」
 夏彦が、とんっとオレの心臓の上に人差し指を当てる。
 「―――っ」
 「『その時』が来た時、お前のここに俺だけが居れば、それでいい」
 「……なつ…ひこ……」
 「俺を選べ…」
 誓いのようなキスを受けながら、オレはその時が来たら夏彦を選ぶんだろうかと考えていた。



 結局オレは、夏彦を選べなかった。
 ただ一人の相手に銀次を選び、あの体は統合者の雪彦のものになった。



 オレは―――――――間違ったんだろうか――――。




☆☆☆



最初の9行目辺りまでは、この前の話と同じくらいに書いていて、それからどれだけほっといたんだ…(−−;
まあ、書きかけがなんとか形になって、よかったです。
蛮ちゃんが夏彦を選んでたら、絶対雪彦は負けてたと思う…。
というよりも、まず弥勒の家から逃げ出すことが無いんだろうから、邪馬人兄ちゃんと会うことも銀次と会うこともなく、一生……うわぁ(−−;;

この三つ目で終わる予定だったんですが、もうちょっと短いのが続きます。
どんなカプを書いても、私は結局銀蛮に着地するんだよねぇ(^^;
…と思ったんですが、一年も放置しているうちに何を書こうと思っていたんだか忘れてしまった…(汗
どう纏めようと思ってたんだろう…(−−;