美堂蛮(うさぎ)

 あの戦いで、弥勒は統合されて、「七人の弥勒」は「弥勒雪彦」になった。
 消えたわけじゃないが、優しかった緋影もいろいろかまってくれた奇羅々も雪彦の一部になり、その姿を現すことはなくなった。
 あんなにオレに執着していた夏彦も…また。



 「…………」
 ココニイルノハユキヒコデ、ナツヒコニハニドトナラナイ。
 そうなのだと頭ではわかってる。弥勒は統合されたら統合者一人になる。以前にいた人格は姿を現さなくなる。
 7人の中で一番強くて、他の人格を押さえ込むほどだった夏彦だって同じ事。
 わかっているのに…オレはまだ信じられないでいる。
 あの夏彦が…消えてしまったなんて。
 「……?」
 目の前で眠っている雪彦を起こさないように、小さく呼びかけてみる。
 夏彦は…現れない。
 本当に…? 本当に、消えちまったのか……?
 オレが雪彦に触られても、怒らねぇの?
 さんざんオレの体を好きにしたじゃねぇか。
 こんな体にした責任、とってくれんだろ?
 「……なつひこ」
 オレが…銀次を選んだから…?
 夏彦を選ばなかったから、消えちまったのか…?
 オレがただ一人の相手に夏彦を選んでいたら、雪彦でなく夏彦がここにいたんだろうか。
 あの時言っていたように、弥勒のさだめすら覆して、オレの側に。
 「…オレの…せいなのか……?」
 「違う」
 「――――っ…雪彦……」
 短く否定されベッドに押し付けられて、一瞬期待したが、やっぱり夏彦じゃなかった。
 「蛮のせいじゃない。夏彦たちが消えることは、生まれた時から決まっていたことなんだ。蛮が望んでも…望まなくても」
 見下ろす雪彦が苦しそうなのに、メガネかけてない雪彦の顔見るのは久しぶりだななんて思ってしまうオレは、どこか麻痺しているんだろうか。
 「でも、僕がいるから。僕が夏彦の分まで、ずっと蛮を護って愛していくから。だから、蛮―――」
 雪彦は好きだ。抱きしめられても嫌悪感がない。
 でも。
 「雪彦……ごめん」
 雪彦を夏彦のかわりにするなんてできない。
 他の誰でも。銀次でも、夏彦を喪ったことでできたオレの中の穴を埋める事はできないだろう。



 夏彦は、オレの――――――。



☆☆☆



やっぱり、あれだけ執着してた蛮ちゃんを置いて、うちの夏が消えるとは思えない…。
でも、邪馬人兄ちゃんが死んでるのが当たり前のように、原作終了後の話には夏はいません。
次は↑で蛮ちゃんが言っている「あの時」の話。
まだ弥勒の家に軟禁されてたときの話です。

…最後の「オレの―――」の「―」のところには何が入るんだろう?とか、私が言っちゃいけないですが(^^;
蛮ちゃんにとって夏彦ってなんだろう…。