弥勒雪彦(うさぎ)
あの戦いで、僕たちは統合されて、七人で共有していたこの体は僕だけのものになった。
消えたわけではないけれど、緋影兄さんも奇羅々姉さんも僕の中に溶け込み、個人として現れることはなくなった。
夏彦も、また。
カララン♪
「あ、雪彦君。こんにちは〜」
「…よう」
HonkyTonkのドアを開けると、挨拶する前に銀次君が目敏く見つけて声をかけてくれる。
わずかに遅れて、蛮の声。
挨拶をくれる一瞬前、僕の姿を映した瞳が揺れる。
その揺らぎが…僕を不安にさせる。
蛮にとって、統合者は僕ではなく、夏彦であってほしかったのではないか、と。
「こんにちは。これ、よかったら」
銀次君に土産の箱を渡す。
「え、お菓子?」
「うん、シュークリームなんだけど、たくさんあるからよかったらウェイトレスの子達にも」
「わぁ〜い、ありがとう、雪彦君! あ、蛮ちゃんも食べる?」
「いらねぇ」
「そっか。夏実ちゃん、レナちゃん、シュークリームだって〜」
そう呼びながら、銀次君はテーブル席の方に行ってしまった。
わずかに考えてから、蛮から一つ離れた席に座る。
なんとなく、蛮の隣には座れなかった。
こんな気持ちのままでは…。
「体はもう平気なのか?」
僕のほうを見ないまま、蛮がそう聞いてくる。
「うん…時々仕事もしてるしね」
護り屋の仕事はほとんど夏彦の名前で取ってたから、夏彦が姿を現さなくなって仕事は減ったけど、そんなに必死に仕事しなくちゃいけないわけでもないし。
一つずつこなしていけば信用はできて仕事も増えるってわかってるから、心配はしてない。
「そっか………」
…いつも以上に蛮の歯切れが悪い。
なんだろう…?
「……なあ、雪彦……」
「なんだい?」
自分で呼びかけたくせにまだためらって、それでもようやく小さな声で蛮は言った。
「…今度、雪彦んちに行ってもいいか…?」
「…………」
ああ、やっぱり蛮は夏彦がいなくなったことが信じられなくて、確かめずにはいられないんだね。
「…その前に、一つ聞かせて」
一つだけ、聞かせてほしい。
例えそれが、どう自分を誤魔化しても優しい嘘にしか聞こえなかったとしても、蛮がくれた言葉を胸に、僕はこれから生きていくから。
「蛮は……統合者が僕でよかったと思ってる…?」
「ああ…オレは雪彦が統合者でよかったと思ってるぜ…?」
「ありがとう…。家にはいつでもおいで、蛮ならいつだって歓迎だから」
その言葉だけでいい。例え嘘でも「蛮がそう言ってくれた」それだけで。
僕はその言葉を抱きしめて、これからずっと蛮を護って生きていくよ。
☆☆☆
とうとう書いてしまいました、原作が終わった後設定の話。
うちの場合、夏彦はかなり蛮ちゃんに影響を持っている人間なので、やっぱり消えちゃったらアレだろうなぁと。
とりあえず、三話でまとまる予定。