天野銀次(ねこ)

 「蛮ちゃん……」
 投げ出された蛮ちゃんの素足に縋り付く。
 「蛮ちゃん、オレのものになって…オレだけのものに」
 蛮ちゃんに『お願い』する。
 同情でもいい。蛮ちゃんがオレのことを『かわいそうなやつ』と思ってもいい。
 情けない。それでもいい。
 プライドなんか、どうでもいい。そんなの捨てて、蛮ちゃんが手に入るなら。
 「…オメーのもんに…?」
 「うん」
 「オメーだけのもんに?」
 「うん」
 「いいぜ?」
 「え…」
 絶対無理だと思ってたから、驚いて顔をあげた。
 蛮ちゃんは笑ってるけど、からかってる風でもない。
 「オレだけのものになってくれるの?」
 この、誰にも縛られない自由な蛮ちゃんが、本当に?
 オレが信じられないような顔をしているからか、蛮ちゃんは面白そうに笑って、瞳をきらめかせた。
 「当然、条件はあっけどな」
 「…蛮ちゃんを縛らない、とか…?」
 「ちげーよ、逆だ、逆」
 なんでどいつもこいつも逆に勘違いするんだかなって呟きは、誰のことを指してるのかはわからないけど。
 逆…?
 「オレはな、執着されんのが好きなんだよ。オレのことを『特別』だと思わないヤツに興味はねぇ」
 オレからすると、蛮ちゃんのことを特別だと思わない人なんかいるわけないと思うけど。
 こんなに…綺麗で強くて、魔的なほど魅惑的なのに。
 「だから、オレが欲しいなら…」
 サングラスをずらして、間近で邪眼をかけるかのように見つめてくる紫の瞳。言葉を紡ぐ唇。伸ばされる指。
 すべてに力があるようで…目が離せない。
 「がんじがらめに束縛しろ。オレが好きなら、その執着を見せつけろ。オレがどこに行こうと、誰と寝ようと、諦めねぇで見捨てねぇで追い続ける限り…」
 にやりと笑う、悪魔みたいに綺麗な笑顔。
 「オレはオメーのもんだ」
 「…こんなに、こんなにオレは蛮ちゃんが好きなのに…」
 細い体を逃がさないように抱きしめる。
 ずっとずっと、こうやって抱きしめて離さないでいられたらいいのに。
 「これ以上好きになったら、オレ、おかしくなっちゃうよ」
 「いいじゃねぇか、おかしくなれよ」
 口付けて、吐息のように囁いてくる。
 「…オレが好きで好きでおかしくなるようなヤツ…嫌いじゃねぇぜ」
 ああ…だから蛮ちゃんはあの不動も嫌いじゃないんだね。
 オレもいつかああなるのかな…もうそれでもかまわない。
 どうなろうと、蛮ちゃんを諦めたり手離したりすることなんか出来やしないんだから。
 「うん、わかった。蛮ちゃんが逃げても逃げても追い続けて、絶対捕まえて縛りつけるから。覚悟してて」
 「ああ…待ってんぜ」
 うっとりと微笑む蛮ちゃんに、思いを込めて深く口付けた。




 カララーン♪
 「波児さん、蛮ちゃんいるーっ!?」
 ベルの音を響かせて、HONKYTONKに飛び込みながら聞くと、波児さんは言い難そうに呟いた。
 「あー、蛮のやつはなぁ………」
 「…また誰かとでかけちゃった?」
 「…笑師、だったかな。サングラスかけた関西訛りのある奴と」
 「笑師? めずらしいな」
 笑師じゃ、無限城には…いかないな。どこ探せばいいんだろ…。
 「ありがとう、波児さん」
 とりあえず店を飛び出そうとしたオレを、波児さんの声が引き止める。
 「銀次、蛮はああいう奴なんだから、追いかけ続けるとかえって逃げるんじゃないか?」
 「違うよ、波児さん、蛮ちゃんは追い続けなきゃ、ダメなんだ」
 きっと帰ってくる、なんて信じて待ってたら、蛮ちゃんはオレのものじゃなくなっちゃう。
 「早く見つけて捕まえなきゃ、だって蛮ちゃんはオレのものだもん」
 待ってて、蛮ちゃん、すぐに見つけ出すから。
 見つけたらお仕置きして、それから何度も何度も好きだって繰り返してあげる。
 だって、蛮ちゃんはオレのものなんだもんね?



☆☆☆



すっごい久しぶりに書きました。
最初の方は2007年の12月に書いてたようです(^^;
三年以上も寝かしといたのか…。


「愛しいなら執着を見せつけて」っぽいところは、「magnet」から。
今、逆転裁判3をやり直してるせいか、一か所蛮ちゃんのセリフがゴドー検事っぽい…(^^;;
ゴドー検事、良いよなぁ…時々わけわからん所とか、コーヒー飲みまくりな所とか(笑
しかし毎回思うけど、ブランクがあると文章が安定しないし、書くのが遅くなる…。


あ、そういえば今日はホワイトデー。
バレンタイン・ホワイトデーネタも考えてたんだけど…いつか書けるかなぁ。