月夜

 満月。HONKYTONKから最近の寝床までの短い帰り道。

 いつも通り、くわえ煙草でズボンのポケットに両手を突っ込み、シャツの裾をひらめかせながら先を歩く蛮の姿が。
 なんだか。
 「蛮ちゃん」
 「あん?」
 暗い小さな公園で、満月の明るい月光に照らされたその姿が。なんだか。
 「手、繋いでいい?」
 「はぁ?」
 眉を顰めて銀次を顧みる表情も見慣れたものなのに。
 「なんか…蛮ちゃん、消えちゃいそうなんだもん」
 蛮が消える理由なんか無い。
 ただ、夏の夜の熱気と、明るすぎる月明かりに照らされた姿にちょっと不安を掻き立てられただけ。
 それは銀次にもわかっている。
 だから、手を握りたかった。
 例え蛮がここから消えてしまうとしても、蛮が行く先まで、自分も一緒に行けるように。
 「…ばーか、甘えんな」
 一瞬立ち止まって、頭の隅を掠めたが言えるはずもない言葉を飲み込むと、蛮はそう言い捨てて、さっきまでより早足で歩き出した。
 蛮が素直に手を差し出すような性格ではないと重々承知のはずなのに、銀次は小走りで後を追いながら抗議する。
 「いいじゃん、手繋ぐくらいさ〜」
 「オレは繋ぎたくねぇ」
 「キスしようとか、ここでえっちしたいとか言ってるわけじゃないんだし」
 「当たりめーだっ」
 「あ、そういえば昼間頼まれた煙草、まだ渡してなかったね。はい」
 突然の話題変更に一瞬戸惑いはしたが、回りのいい頭はそういえばあの後ごたごたして受け取ってなかったなとスムーズに思い出し、納得した上で声をかけられれば、受け取ろうと素直に手が出てしまう。
 にこっと笑った銀次に、あ、と思った時には時既に遅く、がっしりと手を握られてしまっていた。
 「銀次っ」
 「はい、蛮ちゃんv」
 手を抜こうと暴れる蛮をものともせず、笑顔で手を握り続けながら、銀次は差し出した煙草を蛮の胸ポケットに滑り込ませた。
 「帰ろう、蛮ちゃんv」
 「オメーがさっきから邪魔してんだろうがっ」
 「えー、邪魔なんかしてないよ、手を繋いで帰ろうって言っただけじゃん」
 「オメーの手は、熱くて嫌なんだよ、離せっ」
 「オレは蛮ちゃんの手、冷たくて気持ちいいから離さない〜v」
 振り解こうとしても離さないし、銀次の笑顔を見ているとなんだか脱力してくる。
 「…はぁ……も、好きにしろ」
 「うんv」
 えへへ〜と本当に嬉しそうに笑いながら、蛮の手を握り締めて、今度は銀次が先を歩く。
 後をついて歩きながら、握られた手を見つめて、蛮は銀次にわからないように小さく苦笑した。
 こういう、時々強引に自分を求める所が嬉しいと思ってしまうのだから、自分に勝ち目なんかないのだ。
 そう、この自分をどこまでも求めてくれる温かい手と、他の何にも代えがたい笑顔を捨てて、一体どこへ消えるというのだろう。
 ここ以外に、銀次のそば以外に自分が行く場所などどこにもないのに。
 (そんなこと、絶対言ってやらねぇけどな)
 「あれ? 蛮ちゃん、なんか楽しそう」
 「あ? 別にそんなことねぇぜ?」
 そう言いながらも、蛮は楽しそうに微笑んだ。



☆☆☆



まだエイプリルフールネタかよっ(泣
…ということで、やっとこさっとこ差し替えてみました…はう〜。
もう一つ考えたメアドネタよりは短く書けるだろうと思って書き始めたんですが…思ったより長くなってしまいました。
銀次は…時々、いらないところで頭が回るようです(笑
やっぱり優しいだけじゃだめですよねぇ…強引さがあってこそ、求められてる気がすると思うのです。
まあ、程度の問題はあるけど(^^;