冬木士度(ねこ)

 事の後、先にシャワーを浴びた美堂が、バスローブ姿のままベッドで眠っていた。

 とっくにいなくなってるかと思ったが…。

 そっと近付き、穏やかな寝息を漏らす薄く開かれた唇に触れようとした時、それを咎めるように、美堂の携帯が鳴った。

 「…………」

 しばらく鳴って、止まる。すぐにまた鳴り出すそれのディスプレイを覗き込むと、『銀次』という表示。

 止まって、また鳴り出す。よっぽど連絡がとりたいらしいな…。

 かといってオレが出るわけにもいかねぇし…空調の音しかしない静かな部屋に響き渡る着信音にも、美堂の起きる気配はない。

 「美堂、携帯が鳴ってるぞ」

 「ん…っ」

 揺り起こそうとしても、小さく声を上げて手を払うだけで、起きそうもない。

 その間も携帯は鳴り続ける。

 「銀次から電話だぞ」

 「るせ…っ、オメーが出ろ…っ…」

 って、マジかよ?

 オレが出てどうするんだ…とは思ったが、延々と美堂が出るまで鳴り続けそうな携帯に、いい加減鬱陶しくなって、一つ息を吐くとオレは電話に出た。

 「…はい」

 『ぁ…っ…………』

 やっと出た、と言いたげな嬉しげな声の一瞬後に、息を飲む音。

 その後に続く冷たい沈黙に、銀次の表情が変わっていく様さえ想像できて、やっぱり布団を被せてでも放っておくべきだったとオレは後悔した。

 『……士度…?』

 「ああ」

 『蛮ちゃんは?』

 「眠ってる」

 『…起こして』

 「さっきから起こそうとしてんだが…」

 『仕事の話があるから、起こして』

 「…待ってろ」

 こちらの事情など知ったことかと淡々と用件を告げる銀次に一つため息をついて、もう一度美堂に声をかける。

 「おい、美堂、仕事が入ったらしいぞ、起きろ」

 「うるせ…っさわんなっ…」

 よっぽど疲れてるのか、不機嫌そうにそう言うだけで、やはり起きようとしない。

 オレのせい…だけじゃねぇよな。

 「銀次が話がしてぇってよ」

 「邪魔すんなっ」

 起こそうとするオレの手を払って、布団を引っかぶって向こうを向いちまう…無理だろ、これは。

 「オレには起こせねぇ」

 そう言うと、銀次はこっちのやり取りが聞こえたのか、仕方なさそうにため息をついた。

 『じゃあ、蛮ちゃんが起きたらでいいから、仕事の話があるからすぐに連絡ちょうだいって言っといて』

 「わかった」

 『で……士度』

 ――――っ

 わずかな間の後、声の温度が下がる。電話越しですら、名前を呼ばれただけで鳥肌が立つような、その声。

 雷帝の時とはまた違う、限りなく冷えた声に、美堂を追いかけて笑っている時の銀次は偽者で、これこそが「天野銀次」なんじゃないかって気がする…。

 「…なんだ」

 『電話、オレからだってわかってたよね? それでも出たって事は…宣戦布告って事?』

 「……かもな」

 今は綺麗な横顔を見せて眠っている美堂の髪をさらりと撫でてみる。

 銀次が嫌いなわけじゃねぇ、美堂が銀次しか見てない事も知ってる。

 それでも猫がこんな近くで、無防備に眠るようになったからな…。

 『ふぅん……わかった。じゃあ、また…ね』

 「ああ」

 ああ…完璧に銀次に敵と見なされちまったか…。

 携帯を置いて、美堂の寝顔を覗き込む。

 ま、しかたねぇか…べた惚れの恋人を奪うって宣言しちゃ、敵視されても。

 それでも、銀次との関係が壊れることを恐れて、美堂とのこの関係をやめることも、宣戦布告かと聞かれてそういうつもりじゃないと答えることもできなかったんだから、仕方がない。

 「美堂…」

 正直言っちまえば、こいつのどこにそんなに惹かれるのか、よくわからない。

 それでも、他の誰でもなく、お前を手に入れたい…美堂蛮…。

 

☆☆☆

 

最初に。士度なのに、以前のヤツの続きじゃなくて、ごめんなさい〜m(__)m;;
ふと気づけば、一年も放置してるし!
いや、風邪の話はもっと前だし、蛮ちゃんの誕生日もあと一ヶ月ちょっとで来ちゃうし!(滝汗
だめだめです〜〜

で。何が書きたかった話なのかな、これは(笑
なんとなく、わわわわ〜と頭に出てきたので、形にしてみたんですが(^^;
おかしいな…今、人に教えていただいたサイトさん巡ってて、頭の中は銀蛮と夏蛮なんですが。
何でそこで士蛮になるんだろう(^^;
産科の待合室で、暇つぶしがてら妄想かましてたのも、銀蛮だったのに(笑
ところで蛮ちゃんって、どんな着信音なんだろう。
クラシック?って気もするんですが、なんだかわざわざ着メロ探して、設定する、なんてこともしないかなぁって気も…。