王波児(ねこ)

 煙草に火をつけて、吸い込み、深く吐き出すと、ベッドの中からしなやかな腕が伸びて、ひらひらと要求する。

 「波児、オレにも」

 「…灰、落とすなよ」

 どうせベッドの上で煙草吸うな、とか言ったって無駄なんだと諦めて、一応釘を刺しつつも火をつけた煙草と灰皿を渡す。

 「サンキュ。あと、シャツ一枚もらってくぜ」

 またか…ま、予告して持っていくだけマシなんだが。

 「シャツくらい、自分で買え」

 今時千円もせずに買えるだろうが。

 「んだよ…いいじゃねぇか、オレと波児の仲だろ?」

 「どんな仲だよ」

 「んー…愛人関係?」

 ぶっ…

 っと、煙草吹いちまった…ああ、フローリングに焦げ痕が(泣

 嘆いてるオレを見ながら、蛮は楽しそうに聞いてくる。

 「つーか、エンコーのが近ぇかな、なぁ?」

 聞くな!

 「誰が援助交際してるんだ、人聞きの悪い」

 オレは蛮と寝て、金やったことなんかないぞ。

 まあ、金払わなくてもメシ食わせてやったり、いろいろ優遇というか…構ってる自覚はあるが。

 しかし…そうか、援交か…。つまり、蛮はオレと関係を持ってれば何かと便利だから、こういう関係を続けてるわけだ。

 まあ、そりゃ今更で、最初にこうなった時からわかってたことなんだが…改めて突きつけられると、ショック…なのか? よくわからんが、妙な気分だな。

 「波児? 何考えてんだよ?」

 後ろから裸の腕が首に絡まってくる。

 「お前…くわえ煙草やめるか、離れるか、どっちかにしろよ」

 危うく火傷するところだろうが。

 と、今はそういう気分なのか、自分がくわえてた煙草をオレにくわえさせると、蛮はさらにくっついてきた。めずらしいこともあるもんだ。

 「で? 何で変な顔してんだよ」

 「変な顔で悪かったな。お前にとっちゃこれは援交なんだなって、改めて思っただけだ」

 そう言うと、蛮はきょとんと綺麗な目を見開いた。

 髪下ろしてるせいもあるが、そういう顔してると幼いって言ってもいいくらいだな、普段のふてぶてしい感じとは違って。

 可愛い…とか言ったら、嫌な顔するんだろうな。一度言ってみるか?(笑

 「エンコーとはちょっと違ぇけど…義理みてぇなもんだろ?」

 あ? 何だ、義理って。

 「だって波児、邪馬人に頼まれたから、オレに優しくしてくれんだろ?」

 ああ…そりゃ、なくもないけどな。

 というか、最初はそうだったな。今は…それだけじゃないけどな。

 蛮自身に惹かれてる…それは確かで。かといって、蛮と今以上の関係になりたいとも思わない。我ながら、よくわからないな(笑

 体は時々繋げても、心はべったりくっつかないこの関係が楽で気持ちいいと思っちまう辺り、傷つくのに臆病になってるずるい大人なのかもしれないな。

 ある意味ずるいのかもしれないが…しかし、蛮に恋してるのか?と聞かれれば違うような気もするんだよなぁ。だってな、蛮にとって邪馬人が一番でも銀次が一番でも、別にかまわないしな。オレが一番になりたいわけでもないし。

 …蛮のやつが邪馬人のことを大事に思ってるのは知ってるが、もしかして未だに銀次より邪馬人のほうが大事だったりするのか? まあ、余計な世話なんだが。

 「蛮、今のお前にとって、邪馬人はどんな存在なんだ?」

 「…邪馬人…?」

 「答えたくなかったら答えなくてもいいぞ」

 ただの好奇心だしな。

 「…………」

 やばい、黙り込んじまった…古傷、引っ掻いちまったか…。

 顔を見ないようにしながら、ぽんぽんと腕を叩いて謝る。

 「つまんないこと聞いて悪かったな」

 「…邪馬人は……十字架みてぇなもん、かなぁ…」

 「…そうか」

 声聞くと…意外と平気そうだな。

 しかし、十字架か…その死を背負ってるって意味か、辛い時に握り締める心の支えなのか…。

 「じゃあ、銀次はどうなんだ?」

 って聞いちまう辺り、いつかこの好奇心で首が絞まらないといいけどなぁ、オレも(笑

 「銀次? わかんねぇ」

 そんな考える間もなくきっぱりとなぁ。

 「好きなんだろ?」

 「好きだぜ? でも、何て枠に入れたらいいんだか、わかんねぇ…銀次がいなくなったら、生きていけねぇのは確かだけど」

 あ…? なんか今、胸の奥がムカッとしたぞ…。

 「銀次のヤツには言うなよ?」

 「ああ、わかってるさ」

 何で喜ぶようなことをわざわざ教えてやるか(笑

 「んじゃ、シャワー借りるな」

 蛮はオレが肩に引っ掛けていただけのシャツを取り上げて、軽く羽織るとバスルームへ向かった。

 さっき言ってたもらっていくシャツって、それか?

 「新しいシャツなら、そこに入ってるの知ってるだろ」

 「波児の匂いのするのがいいんだよ」

 って…

 「あ、オレ、メシはペペロンチーノな」

 「あ、ああ、わかった」

 一回バスルームに引っ込んだ蛮がひょいと顔だけ覗かせて注文をつけるのに慌てて答える。

 オレの答えに蛮は満足そうに笑って、またバスルームに消えた。

 …なんだって、ああたまに可愛いこと言い出すかな…故意にやって、人をからかってるのか?

 いや、無意識の方がタチが悪いか…(苦笑

 まあ、蛮にとって、愛人でも援交でもいいか。

 銀次とは違う意味で、オレがいなくなったらメシ食う場所がなくなって、生きていけないんだろうからな(笑

 

☆☆☆

 

う〜ん、これも結構時間がかかっちゃいました…。
もっと、さくさく書けるようになりたいです。
やっぱり、波蛮好きですね〜推奨カプ?(笑
蛮ちゃんが甘えるところが好きなんです。ねこさんのくせにこの素直さは何?みたいなところが。
うちの蛮ちゃん、甘やかしてくれる年上に弱いから〜邪馬人兄ちゃんとか緋影とか波児とか。
ああ、緋影の話も書きたいな〜。でもなんだか長くなりそうだし。一人称じゃ無理かな…。
邪馬人兄ちゃんと銀次に対する思いと、愛人関係ってのを蛮ちゃんに言わせたくて書いた話でした〜(笑

しかし、邪馬人兄ちゃんに対する義理も何も、蛮ちゃんは元相棒の一人息子で、波児ってば名付け親だったんですね〜。
「野蛮だから蛮」って言われてそのまま付けちゃうデルカイザーはどうかと思うけど(^^;
そりゃそんな立場だったら、つい助けたくなるよなぁ、あんな(いろんな意味で)あぶなっかしい子。