美堂蛮(ねこ)

 「んっ…」

 ずるりと銀次がオレの中から出ていく…。

 「蛮ちゃん…v」

 いつもなら満足するはずなのに…頬に触れてくる指も…押し当てられる唇も…何か、気持ちが悪い…。

 「―――っ、どうしたの、蛮ちゃん?」

 思わず銀次を押し退けたせいで、驚いた顔してやがる…けど、そんな事より…気持ち悪ぃ…。

 「風呂…使うから…」

 シーツをかぶって、ベッドから降りる。

 数歩歩いて、ふいに体の中からずるりと何かが出てくる感触―――っ

 きっ…もちわり…っ…

 「蛮ちゃんっ!?」

 あまりの気持ち悪さに、心臓がばくばくして、頭がくらくらする。

 気持ち悪い、この体も、今の感触も、散々オレを好きなように穢したくせに心配そうに駆け寄ってくる男も、何もかもが。

 「大丈夫? 無理させちゃったかな…」

 ――っ、触るんじゃねぇ…っ!

 「触んなっ!」

 伸ばされた腕を思い切り払って、オレは自分の体を抱いてあとずさった。

 「え…と、ごめ…蛮ちゃん…?」

 嫌だ 気持ちが悪い もう嫌だ 誰も…

 「触んなっ…誰もオレの体に触るんじゃねぇよ…っもう嫌だ、もう…っ」

 悪寒がする 吐き気がするくらい気持ちが悪い

 嫌だ 嫌だ こんな…男に犯されなきゃまともじゃいらんねぇような体…捨てちまいてぇ…っ

 「…じゃあ、触らないから抱きしめさせて」

 「や…っ気持ち悪ぃっ! 来んなっ」

 オレの叫びに一瞬止まったが、掛け布団越しに抱き締めてくる。

 「離せ…っ」

 「ダメ…これ以上何もしないから、しばらくおとなしくしてて」

 離れてぇのに、両腕をホールドされてるせいで、抵抗できない…足をばたつかせた所で、全然逃げられない。

 嫌だ 気持ち悪い 怖い――――

 …けど、布団越しのせいで、手の感触も体温も感じない…。

 ただ抱きしめてくる腕だけが、何もかも否定して崩れ落ちそうなオレを支えるように力強くて…。

 

 

 「………銀…次…」

 「落ちついた? 蛮ちゃん」

 「ああ……悪ぃ」

 「いいよ、謝らなくて。気にしてないからv」

 「銀次…」

 少し腕を弛めて、いつもの笑顔で口付けてくる。

 時々起こる、あのどうしようもない、自分どころか銀次さえ気持ち悪くなるあの発作…。

 きっとまた起こる…けど、この腕があればきっと―――。

 

☆☆☆

 

諦めていても、やっぱり気持ち悪くなったりする事もあるんじゃないかなぁ…と、そんな話です。