美堂蛮(うさぎ)

 今日は満月、それも中秋の名月だ…。

 普段月なんか見ねぇ奴等も、秋の満月は月見だとか騒ぎやがるからな…まじぃかと思ったが、やっぱり…

 あの顔はわかってやがんな…(嘆息

 

 先月の満月のときゃ、オレも気付かねぇままうっかり興奮してたのか、銀次の誘いになんとなく乗っちまって、あとできっちり後悔したから、今月の満月は要注意だと思ってたんだが…こうニュースとかで言ってちゃ、いくら銀次でも気付かねぇってこたぁねぇよな…。

 しかも朝っぱらから上機嫌だし…ばればれだろうなぁ。

 …いっそのこと、今日一日どっか行っちまうか。そういう事態になってからじゃ、逃げられねぇ可能性もあっからな…よし、姿晦まそう。

 さて、どこ行くかなぁ…。金かかんなくて時間つぶせるとこっつーと…図書館か? 見つかりそうだな…。

 誰かと一緒にいた方がいいか? つっても…オレの知り合いなんて…(苦笑

 っんとに、銀次のそば以外、オレの居場所ってねぇのな…。

 いっそのこと、灯台下暗しで、波児に事情話して、匿ってもらうか…それとも…

 「蛮ちゃん?」

 うわっ、もう来やがったのか!?

 「な、なんだよ」

 「? どうかしたの?」

 「何でもねぇ。何か用か?」

 とりあえず、そういうこと言い出しやがったら、まだ昼間だろって一発殴って、逃げるか。

 「あのね、オレ、今朝いきなり朔羅の作ったケーキ食べたくなっちゃってさ〜」

 …あ? 朔羅って、あれか、MAKUBEXんとこの。

 「んで、わがままなのはわかってたけど、朝一で電話して頼んでみたら、作ってくれるって言ってくれてv んで、十兵衛がHONKYTONKまで持ってきてくれるんだけど、蛮ちゃんも食べに行かない?」

 んだよ…じゃあ、朝からこいつが上機嫌だったのは、ケーキが食えるから、だったのか?

 いや、それは一因で、満月ってことを知らねぇとはかぎらねぇしな。

 「行かねぇ」

 「う〜ん…ほんとに美味しいんだけどなぁ、朔羅のケーキ。そんなに甘くないよ?」

 「いいから一人で食ってこいよ」

 今日はオメーと居たくねぇんだよ。ってのが伝わったのかどうか。

 「わかった。じゃあ行ってくるね。あ、もしかしたら後で十兵衛と一緒に無限城行くかもしれないけど、いい?」

 割とあっさり引き下がった上に、そんなことを言い出した。

 いつもべったり引っ付いて一緒に居たがるくせに、今日はあっさりしてやがんな…?

 「仕事もなさそうだしな。いいんじゃねぇの?」

 「うん、もしかしたら今夜帰らないかもしれないけど、心配しないでね。あ、オレが居ないからって、浮気とかしちゃダメだよ?」

 「あぁ?」

 何言ってやがる!?

 「じゃあね〜気をつけてね、蛮ちゃんv」

 額に怒りマークが浮いたのに気づかないまま、銀次は笑いながら手を振って行っちまった。

 何なんだよ、浮気ってのは。まったく…。

 でも、ま…今夜帰ってこないなら、オレには好都合だ。

 好都合なんだが…あんまりにもジャストタイミングじゃねぇ?

 銀次の野郎、今日が満月だって気づいてねぇのかな? それとも、先月の時のオレの…その…乱れ具合が、満月のせいだって気づいてなかったとか?

 …昨日から、ちっと緊張してた分、拍子抜けしたな…。

 あーあ、天気も悪くねぇし、昼寝でもすっかな…。



→続き
☆☆☆

 

また満月ネタ。
続きは語りが銀次に代わります。
しかし、無限城でケーキなんか作れないかな?よく考えたら。
でもマクベスがいるんだから、オーブンぐらい作れるか?(笑