美堂蛮(うさぎ)

(23日の日記の続き)

 「ん…」

 「蛮…大丈夫…?」

 あ…? 雪彦…? 聞き慣れた声に目を開けると、雪彦が心配そうに顔を覗き込んでいた…。

 背中の堅い感触と、額に冷たい物が乗ってる感じ…えっと…?

 「雪彦…オレ、いつの間に寝てた…?」

 なんだ…? 昼飯の後に本でも読みながら寝ちまったのかな…そう思いながら体を起こそうとすると、雪彦がめったに見せない厳しい目でオレの肩を押さえて、もう一度横にさせようとする。

 「まだ横になってた方がいい。意識が混濁してるじゃないか…ダメだよ、こんな炎天下に出歩いちゃ。蛮のことだから、この暑さでまた食欲が落ちてるんだろう…? ちゃんと食べなきゃ、もたないよ」

 …ああ、背中の堅いのはベンチで、額に乗ってんのは、雪彦の濡らしたハンカチかなんかか。

 マジでやばかったみてぇだな…いつベンチに横になったかも憶えてねぇぞ…。

 「悪ぃ…雪彦」

 されるがままにもう一度ベンチに横になって、濡れたハンカチを目元まで下ろしながら、オレは小さく謝った。

 今回は体調管理がなってない上に、ばかみてぇに暑ぃのがわかっててその対策もせずにぶっ倒れかけたオレが悪い。

 「いいよ…でも、気を付けなきゃだめだよ、蛮。あんまり心配させるんなら、屋敷に連れ戻しちゃうからねv」

 冗談めかしてそんなことを言う声も、昔と同じに優しくて、髪を撫でる手も、子供扱いな気がするのに嫌悪感はない。

 昔っから雪彦と緋影には妙に虚勢が張れねぇっつーか、素直になっちまうんだよなぁ…雰囲気のせいか?

 「そりゃ勘弁してくれよ…夏彦に見つかったら、今度こそ鎖で繋がれちまう」

 「…僕の知らない所で蛮が倒れてるかもって思うくらいなら、完全に手の中に収めて、大事にしたいって、僕だって思うよ」

 優しい優しい雪彦。オレを大事に思ってくれてんのは知ってっけど。

 でも、オレは雪彦の側に居る事を選べなかった。なのに、雪彦の気持ちは利用する。最後の所でオレの嫌がる事は出来ないという、雪彦の優しさを。

 「心配かけたのは、悪ぃと思う。でも弥勒の屋敷には帰らねぇ」

 「蛮…うん、わかってるよ、あそこにいない方がいいって言ったのは僕だもの」

 そうだ。籠の鳥だったオレの背中を押してくれたのは、雪彦だった。

 「連れて帰ったりしないから、せめて栄養つけるのくらい手伝わせてくれる? もうちょっと涼しくなったら、ウナギでも食べに行こうよv」

 「そうだな…」

 呟いて、オレは緊張を完全に解いた。最強の護り屋が護ってくれるなら、これほど安全な所はそうそうない。

 髪を撫でる手を感じながら、オレは心地好く意識を手放した。

 

 言わねぇけど、屋敷に居た時はオメーの存在にかなり救われてたぜ? 雪彦。



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☆☆☆

 

いい人っぽいね、雪彦(笑
「こんな炎天下に出歩くな」と言いながら、弥勒さんは何してるんでしょう。
多分、仕事中です。いや、仕事帰りか。
蛮ちゃんに反して、弥勒は暑いも寒いも平気そう。
どっちかダメなら、寒い方がダメそう。あの格好だし。