呼ぶ

 HONKYTONKの昼下がり。

 「見てください、この子! すっごい可愛いでしょう〜?v」

 「あらあら、すごいほっぺた大臣ねぇ」

 「わー、可愛いねぇv」

 夏実が友人の姉の子供の写真を撮ってきたとかで、ヘヴンと銀次を巻き込んで騒いでいた。

 蛮は銀次の隣にいつものようにいることはいるが、子供の写真になど興味がないというように、タバコを吹かしながら新聞を読んでいる。

 「指を出すと、ぎゅっと握ってくるのが、もう可愛くて〜」

 「うんうん、赤ちゃんは可愛いよね〜」

 今すぐにでも子供が欲しいとか言い出しそうな夏実の向かいで、子供好きな銀次がのほほんと応じる。

 「でもこの子、淋しがり屋みたいで、寝てて目が覚めて誰もいないと、めちゃくちゃ泣くらしくって、そのたびに飛んでいくのが大変らしいですよ」

 「そっか〜、お母さんも大変だよね。でもさ…」

 「いいじゃねぇか、呼ぶんだったら、何度でも飛んでいってやりゃぁ」

 銀次の言葉を遮って、蛮が口を出してくる。

 この話題には入ってこないだろうと思っていた三人と波児が「おや」という顔で見る中、蛮は新聞に目を向けたまま、さらりと続けた。

 「その年から、呼んでも泣いても、誰もきてくれないなんて、思い知る必要はねぇんだからよ」

 「…そうだよね、赤ちゃんなんだもん。何年かすればお母さんたちの事情もわかるようになるんだから、今は甘えたって、全然いいよね」

 「そうですねv」

 悲しい過去を思わせる蛮の言葉に一瞬止まって、銀次が頷いて言うと、夏実もにっこりと同意した。

 「だからね、蛮ちゃん」

 言いながら銀次は、蛮の見ていた新聞を奪い取ってしまう。

 「おいっ」

 「蛮ちゃんも、オレのこと、呼んでね?」

 蛮が睨み付けるのも気にせずに、笑いながらも真剣に銀次はそう言った。

 「オレは赤ん坊じゃねぇぞ」

 「赤ちゃんじゃなくたっていいじゃん。オレは蛮ちゃんが呼んでくれれば、どこからだって絶対飛んでいくから。だから蛮ちゃん、オレのこと、呼んで」

 「…いつだって、呼んでるだろーが」

 銀次が言っているのは普段ではなく、非常事態の時の事だろうと思いつつも、そう流す。

 「うん、そうだけど。もっともっと呼んでv」

 「…そーだな」

 きっと呼べない。自分が危ないからといって、銀次を危険にさらすとわかっていて、呼ぶことなどできない。

 それでも、呼べば来てくれると、必ず来てくれると信じられるなんて、なんて幸せ。

 「ぜってー来いよ? 来なかったら、ぶん殴るからな」

 そう言った蛮は、自覚はなかったが、幸せそうに微笑んでいた。

 蛮にそんな表情をさせられたことが嬉しくて、銀次は力一杯頷いた。

 「うんっ」

 

 幸せな雰囲気になったのもつかの間、ラブラブモードになったのをヘヴンにからかわれた蛮が照れ隠しに銀次を殴りつけるのは、数分後のことだった。



☆☆☆



原作ではあまりにも、蛮ちゃんが自己犠牲的精神が激しいので。

コンビだったら、お互いに呼び合って助け合うべきなんじゃないかなぁ…。

まあ、それでも多分、呼べないんでしょうが。

そんなことを考えつつ、書いてみました。

20040623