心の中に住んでいる人

 「ねえ、蛮ちゃん。今でも邪馬人さんの事…好き…?」

 「…………」

 答えはない。ただ、ふとわずかに下げられた視線が、纏う雰囲気が、軽い想いではないと伝える。

 「あ、ごめん、責めてるんじゃなくってさ」

 慌てて銀次はそう言った。

 本当に責めているわけじゃなくて。

 もちろん嫉妬しないわけじゃない。蛮が大事に想っている存在。きっといつまでも、蛮が死ぬまで愛しく想い続けるであろう、自分以外の男。

 醜い嫉妬が、蛮の中から邪馬人の存在が消えればいいと思わせることもある。

 でもそれより強い思いで。

 「オレはね、『邪馬人さんのことが好きな』蛮ちゃんが好きだよ」

 言葉では説明ができないほど辛い過去の中で、蛮の心を暖かく照らす光。

 銀次が大好きだと思う蛮がこんな風なのは、きっと邪馬人のおかげもたくさんある。

 (ずっと蛮ちゃんの中で邪馬人さんと比べられるのは辛いけど…でも、蛮ちゃんを思う気持ちは、オレ、邪馬人さんにも負けてないと思うし!)

 負けてないと思うし、負ける気はないのだ。

 だから銀次は邪馬人への思いごと、蛮が好きだと言い切る。

 「…忘れろって、言わねぇの?」

 昔好きだった相手を忘れずに、今好きな相手の手も離さないというのは、強欲ではないのか。

 「ん〜、ほんとはちょっと、忘れてほしいって思うときもあるかな」

 だって蛮ちゃん、今でも邪馬人さんのこと大好きみたいなんだもん。と、すねる様が、雷帝とまで呼ばれた男にはとても見えずに、笑みを誘う。

 微笑んだ蛮に銀次も照れたような笑みを漏らして、続けた。

 「でもね、邪馬人さんが好きな蛮ちゃんが蛮ちゃんなわけだし、オレ、邪馬人さんに勝つ自信あるし!」

 思いっきり前向きにガッツポーズなどとるので、つい意地悪を言ってみたくなる。

 「自信ねぇ…邪馬人は強ぇぜ?」

 邪馬人は大事だ。邪馬人との思い出は本当に幸せで…なくしたくない過去なのだ。

 そう過去。過ぎ去ってしまった美しい、穢れることのない思い出。

 今じゃない。

 今は銀次といる。きっとこれからもずっと。

 「うん、知ってる。蛮ちゃんの大事な人だもんね」

 その金の髪よりも輝く銀次の心。前向きな笑顔。

 邪馬人と似ているようで、やはり違うところもたくさんあって。

 それでも。

 「でもいつか、蛮ちゃんに『邪馬人より好きだ』って言わせてみせるよ」

 もうすでに、銀次のほうが好きかもしれないなんて、きっと言えない。

 その代わりに、銀次の両頬をぐにょりと引っ張った。

 「邪馬人に勝とうなんざ、10年早ぇ」

 「いたた…っ、知ってるよーっ」

 まじめにがんばろうと思ってるのにー、とすねる銀次の顎をひょいと捕まえる。

 「でも…ま…」

 軽く触れるだけのキス。

 「がんばんな」

 「…うんっ」

 蛮の好きな満面の笑みを浮かべて、銀次は蛮を抱きしめると、優しく口付けた。

☆☆☆

まあ…そんな話。

何で私、こんなに話が根本に戻ってるんだろう(^^;

これは…普通に銀蛮ですかね?

相変わらず、タイトルが思いつかずに…しくしく(T_T)

20040621