王波児(ねこ)

 「つっまんねぇ…」

 退屈そうな猫が目の前のカウンターに懐いている。

 外は実に梅雨らしい雨で、相変わらず他に客もなく(というか、猫は客じゃないか…金払わないんだからな)、夏実ちゃんも学校。

 確かに気だるげではあるな。ちなみに銀次はいない。無限城に行っているらしい。相変わらず、慕われてるんだなぁ…雷帝でなくなってから、もう結構経つのにな。

 「退屈で死んじまう…」

 「退屈で死んだ奴はいないから、安心しろ」

 もしかすると蛮なら、退屈で死ぬかもしれないって気も、実は微かにするが。
 というよりも、死ぬより先に…つまらない事を思い付きそうなんだよな…退屈させると。

 「……波児も暇そうだよな」

 「勝手に決めるな、暇じゃないぞ」

 …危険だな。他所の遊び相手のところに行ってくれればいいと思ったが…ターゲットにされたような気がするぞ。

 「留守番がいるうちに、買い物にでも行ってくるか」

 と、エプロンを脱ぎつつ、逃げようとしたんだが。

 「逃げんなよ…なぁ、遊ぼうぜ? 波児」

 その顔は…どうあっても逃がしてくれなさそうだな…(嘆息

 「暇なら、銀次を追っかけて無限城に行ったらどうだ?」

 行く気があればさっさと行ってるだろうとは思ったが、案の定。

 「行きたかねぇよ、あんなとこ。大体銀次の奴だって、オレが追っかけてったって、喜びゃしねぇだろうしよ」

 なんだ? 蛮の奴、銀次が呼ばれて無限城に行ったのが気に入らなくて、拗ねてるわけか?

 ますます…やばい。こういう時の蛮には近付かないに限る。

 が、逃げられなさそうなんだよなぁ…。

 「だから…よ?」

 にっこりと…そのらしくない笑顔が怖いっての。

 「暇人同士、オレ達も楽しもうぜ? なぁ…波児…?」

 カウンターの中に入ってくるな、こら。

 首に腕を回して抱きついてくる…って、おい?

 「まさか…『ここ』でする気じゃないだろうな?」

 ドアも「CLOSE」にしてないし、いつヘヴンちゃんやらお前らの知り合いが来てもおかしくないんだぞ?

 「スリリングでいいじゃねぇか」

 くすくすって…お前は誰に見られてもいいかもしれないがな。オレは夏実ちゃんに見られるのだけは、絶対に勘弁してほしいぞ。あ、あとヘヴンちゃんにもな。

 って、言ってる間に、人のシャツのボタンを全部はずすなっ。

 「せめて、ドアに鍵をかけさせろ、蛮っ」

 「やだね…鍵がかかってたら、銀次が帰ってきても入れねぇじゃん?」

 「って、お前はオレを銀次に殺させたいのか!?」

 薄々は感付いてるかもしれんが、現場なんか見られたら、オレは本気で雷帝に殺されるぞ…(汗

 「大丈夫だって…今んとこ、銀次に殺られた奴はいねぇから」

 じゃあ…オレが一人目になるんだろうな…(遠い目

 「なぁ…早く、しようぜ…?」

 自分で作ったこの状況が気に入ったらしく、さっきまでの退屈そうな感じは欠片もなく、楽しそうに瞳をきらめかせている…本気で楽しそうだなぁ…(嘆息

 …逃げられないなら諦めるしかないか…。

 あとはオレの運次第、かな…あまり運には自信がないんだが。

 「なぁ…波児ぅ……」

 諦めて、擦り寄ってくる蛮を抱きしめて口付けた時…。

 カララン♪

 …聞きたくない音がしたような気がした…。

 

 気のせいだと言ってくれ(泣



→続き
☆☆☆

 

蛮ちゃんに遊ばれる波児でした(笑
まあ、銀次が無限城に行っちゃって、いらいらするのを紛らわそうとしてるんで、甘えてると言えば、甘えてるわけなんですが。
波児は嬉しくないだろうけど(笑