天野銀次(ねこ)

 今日はマリーアさんのところに遊びに来てるんだ♪

 「そうだ、銀次君、月齢占いしてあげましょうか?」

 「げつれいうらない?」

 「銀次君の生まれた時に、月がどのくらい欠けていたかによって、性格とかを占うものなんだけどね〜」

 「けっ、あたりゃしねぇよ、んなもん」

 その辺の本棚にある、オレが覗き込んでも何がなんだかさっぱりわからないような本を読みながら、蛮ちゃんがつまらなそうにそう言い捨てた。

 「蛮は占いとか嫌いだから…」

 ふぅ、と小さくため息をついて、マリーアさんが切なそうに笑う。

 「マリーアさん…」

 「でもね! そう馬鹿にしたものでもないのよ? やってみればわかるけどv」

 かと思ったら、突然パン!と手を打って、にっこりvと全開の笑顔で楽しげに言う。

 …前も思ったけど、不思議なテンションの人だよなぁ…。ころころ気分が変わるっていうか、どれが今の本当の気持ちだか、時々わからなくなる。

 オレよりずいぶん年上らしいし、魔女だし、女の人だし、やっぱり不思議だなぁ。

 「やってみない?」

 「あ、じゃあ、お願いします」

 「はーいv それじゃ、銀次君の誕生日は…4月19日だったわね♪」

 うん、そう…って、オレ、マリーアさんにそんなこと話したかな??

 「蛮と同い年ね?」

 「たぶん…」

 ほんとは誕生日もよくわかんないけど。天子峰さんが教えてくれたからそうだと思ってるけど…もしかしたら、天子峰さんがオレを拾ってくれた日だったりするのかな、とか、たまに思うんだよね。

 「…銀次君」

 「え?」

 「あーん、してv」

 にっこり笑って、マリーアさんが言う。「あーん」?

 「あーん、って、口開けてv」

 ? げつれい占いとどう関係あるかよくわかんないけど…

 とりあえず、口を開けてみた。

 何か口に放り込まれて、反射的に口を閉じる。

 ・・・? アメ…?

 「美味しい飴でしょう?」

 「…うん」

 「それ食べて、ちょっと待っててねv」

 にこにこ笑いながらオレの頭を撫でると、マリーアさんは何か数字の散りばめられた表を見だした。

 …オレ、何か心配させちゃったかな、もしかして。

 ふと見ると、蛮ちゃんが本に視線を落とすのが見えた。オレのこと見てた…のかな。

 「蛮ちゃん、アメ、おいしいよ。蛮ちゃんももらいなよ」

 「おう。マリーア、よこせ」

 「あらあらv 普段は甘いものなんかいらないって言うのにv」

 「いいからよこせ」

 「はいはいv でも、先に言っておくけど、蛮好みじゃないと思うわよ?」

 マリーアさんがオレにしたみたいに食べさせてくれようとするのを、蛮ちゃんはアメを奪い取って自分の口に放り込んだ。

 ちょっとしゃぶった途端、顔を歪めて口元を押さえる。

 「う…っ、あっめぇ…っ」

 そ、そんな嫌な顔するほど甘いかな? そりゃ、蛮ちゃん甘いの苦手だけど…。

 「だから言ったじゃないのv でも、一度口に入れたからには、全部食べないとお仕置きよ? 蛮v」

 「わーってるよ…どこが美味いんだ、こりゃ…」

 やな顔しながらも我慢して食べてる蛮ちゃんをマリーアさんがにこにこしながら見てる…。なんかそういう顔見てると、やっぱりマリーアさんって蛮ちゃんの育ての親なんだな、って思う。

 笑顔は、マリーアさんいっつも笑顔なんだけど、なんていうか…お母さん、みたいだなって。

 「で、銀次君の生まれた時、月はね、上弦だったみたい」

 「じょうげん?」

 「弓に張った弦が上に向いてるみてぇな形した月だ」

 げん? って、ああ、弓の紐みたいなやつ。蛮ちゃんの説明にも首をかしげたオレに、マリーアさんが形を教えてくれる。

 「その頃に生まれた人は…『光の理性と闇の感情の対立。相反する2つの意識の間で葛藤し、決断するパターンが、人生の重要な場面に訪れます。負けず嫌いで、戦うことによって運命を勝ち取る人生を望みます』だそうよv」

 「へぇ…結構当たってんじゃねぇの?」

 「そ…かな」

 光と闇…2つの意識って、オレと雷帝のこと…?

 「オメー、負けず嫌いじゃねぇか」

 「蛮ちゃんだってそうじゃん! それに…」

 負けず嫌いなんじゃなくて、負けたら、何も守れないし、欲しいものも手に入らないから…負けられないだけだよ。

 「それに? んだよ」

 「なんでもない。蛮ちゃんだって負けず嫌いじゃん」

 「オレ様は負けねーから、負けず嫌いとはちげーの」

 「…マリーアさん、蛮ちゃんは?」

 「蛮はね〜、満月なのよv 『満月のように、周囲を惹きつける魅力の持ち主。自己顕示欲を発揮し、自分らしさを表現することで認められようとします。プライドが高く、情熱的。より完璧さを求め続ける理想主義者』…当たってなくもないけど…ちょっと外れかしらね」

 「結構当たってると思うけど…」

 あ、でも、蛮ちゃんの弱いところって言うか、どっか壊れそうなところが出てないかも…。 そう思いながらマリーアさんを見ると、オレの思ったことがわかったかのように笑っていた。

 蛮ちゃんはほんとに自分の占いなんかには興味がないみたいで、聞いてないかのように本に目を落としている。

 綺麗な横顔…蛮ちゃんって、ほんとに何してても絵になるよね…。

 でも…そっか、蛮ちゃんが魅力的で周りの人間を惹き付けるのは、もう生まれつきの、これから先もずっと変わらないことなんだ。

 …やっぱりオレは負けられない。これから先たくさん蛮ちゃんの魅力に参る人が現れても、誰にも負けるわけにはいかない。

 絶対絶対、何があっても、蛮ちゃんを手放すことなんかできないから。

 ああ、やっぱり占いは当たってるかも。戦うことによって運命を勝ち取る人生を望みますって、そうかもしれない。

 人と争うことは好きじゃないけど、蛮ちゃんがオレの運命だから。

 そばにいるためなら、例え誰を傷つけたって…。

 

☆☆☆

 

えーと…天子峰さんも結局事情知ってる人だったの…?(原作ちゃんと読みなさい
いや、あの状態の銀次が名前はともかく誕生日まで憶えてたのかなぁって。
まあいいけど。

書いといてなんですが月齢占いもどうなんでしょうね。
だって新月、上弦、満月、下弦の4パターンしかないし。
人間って、四種類に分けられるもの?