冬木士度(ねこ)
夕飯の後、ぽつりとマドカが言い出した。
「あの…今週末の事ですけど」
「今週末?」
週末は土曜に美堂と会う約束があるくらいだが、それをマドカが知っているわけもねぇし。
なんだろう、と思ったのが伝わったらしく、マドカは笑いながらも少し切なそうに説明した。
「二日が私の誕生日なので、パーティをしようと少し前にお話したんですけど…」
「…ああ、そうだったな。すまねぇ」
「いえ」
気を取り直したマドカがその予定を話しているのを半分聞き流しながら、ふとカレンダーを見て、オレは固まった。
まずい…二日ってのは、約束の土曜じゃねぇか。
一日ズレりゃ問題がねぇもんが、思い切りかち合ってる…。
どうすっかな…っていった所で、マドカの誕生日をキャンセルするわけにもいかねぇ。オレの誕生日の時は特にめでたいとも思わなかったせいもあって、当日に祝おうとするマドカの思いを蹴って美堂と過ごしたが、マドカの誕生日なら祝ってやりたい。
てことは、美堂との約束をキャンセルか…。
……どんな嫌味を言われるんだか(嘆息
と思ったのだが。
『あ? 土曜ダメんなった? ああ、そうだろうなぁ、嬢ちゃんの誕生日だしな』
と、電話で言い難そうに切り出したオレのキャンセルをさも当然のように、あっさりと美堂は受け流した。
「知ってたのか?」
美堂がマドカの誕生日を知っているとは思わなかった。思い切りそういう気を込めて聞けば、あっさりと答えが返ってくる。
『ああ、オレ等んとこにもパーティの招待状が来てっからな』
電話越しの美堂の声。久しぶりに聞くせいか、妙に力無く、気が抜けて聞こえる気がする。
ダメになったと言った時だって、いつもの美堂なら、こちらに非があろうとなかろうと、文句の一つも言うだろうに。
調子でも悪ぃのか?
「おい、みど…」
『つーか、オメーよぉ…』
「…なんだ?」
くくっと笑う、意地悪げな声。
『今日電話してきたって事は、もしかして、嬢ちゃんの誕生日に、今日気付いたって事か?』
「……」
『それとも、もっと前に気付いてたのに、オレ様との約束をキャンセルするのが忍びなかったのかよ?』
今日気付かされたことなど言いたくなかったが、言わなければ言わないで、美堂との約束を破りたくなくて、散々悩んでいたという勝手なレッテルを貼られそうだったので、しかたなく白状した。
「…さっきマドカに確認とられたんだ」
途端に電話から聞こえる楽しげな声。
『マジかよ! ヒモのくせに大事な女の誕生日も憶えてねぇの!? 嬢ちゃんも養い甲斐がねぇな』
「うるせぇ! ヒモじゃねぇっつってんだろうが!」
『ヒモじゃねぇなら、余計に大事なんじゃねぇの?』
「ぐ…」
…そう言われると、ぐうの音も出ねぇ。
『美堂様に口で勝とうなんざ、100年早ぇんだよ、サルの分際で』
勝ち誇ったように言う美堂の声が、さっきより数倍元気で、こいつは憎まれ口を叩く時が一番元気なんだと再認識する。
だが、まぁ…気が抜けたような声より、いいか?と思う辺りで、だいぶオレも終わってるな…。
『…オレには誕生日がめでたいっつーのが、どうしてもわかんねぇけどな』
「み…」
『じゃあな、薄情もんのヒモくん』
「な…っ」
言いたいことだけ言って、反論させずに、美堂は一方的に電話を切ってしまった。
…ま、いつものことだけどな(嘆息
携帯を充電器に置いて、ベッドに仰向けに横たわる。
白い天井を見ていると、少しトーンが下がった独り言のようなさっきの美堂の言葉が蘇る。
《…オレには誕生日がめでたいっつーのが、どうしてもわかんねぇけどな》
そんなことを、確かオレの誕生日の時にも言っていた。『誕生日ってのは、めでてぇもんなんだろ?』だったか?
完全に他人事のような、その言い草。知識として、そうらしいと知っているだけの、事柄。
家族に疎まれたらしいというのは、聞きたくも無いのに花月が話していったから、知っている。
家族以外も、誰も祝ってやらなかったんだろうか。あの年まで。誰も、美堂が生まれてきた事を。
まあ、今年は銀次がいるから、嫌ってくらいに祝ってくれるだろうが…。
「…まあ、オレの時ももらったしな」
借りはきっちり、倍返しにしてやらねぇとな。
☆☆☆
これ思いっきり途中なんですが、続き書いてません…すみませ〜んっm( _ _ )m;;
でも今、銀蛮しか思いつかないんですけど〜(^^;;