冬木士度(ねこ)

 「おい、美堂。シャワーあいたぞ」

 事の後、連絡でも待っているのか、シャワーも浴びずに携帯をいじり出した美堂を放ってオレはバスルームを使ったが、出てきてもまだ美堂は携帯をいじっていた。

 くすくす…。

 その上あろうことか、楽しそうに含み笑いまで漏らしている。…めずらしい事もあるもんだ。

 「何がそんなに面白いんだ?」

 そばに座ると、上機嫌で寄りかかってくる。

 「銀次からメールがきてんだよ」

 …ああ、最中に小せぇ音で、何度か鳴ってたな。

 「銀次、メールなんか出来たのか」

 「いちいち電話かけてくるよりうざくねぇから、やり方叩き込んだ」

 まあ、美堂が銀次のそばを離れてる時は、邪魔されたくない時が多いだろうしな…。

 「で? 早く帰ってこいとでも言ってんのか?」

 まだ帰す気はないけどな。

 そう口には出さないが、銀次の元に帰ると言わせたくなくて、後ろから腕を回して抱きしめると、美堂は振り返り、俺の腕を叩いて笑った。

 「サルはやっぱりストレートだな、おい」

 「うるせぇ」

 銀次からのメール見て笑ってんじゃねぇ、と言わないだけマシだろうが。

 と思ったんだが…また美堂が携帯に視線を戻すと、言いたくなっちまった…ちっ。

 動物たちが嫌がっているのもわからずに、触りまくったりうるさく声をかける人間をずっと馬鹿だと思っていた。もっと放っておいてやればもう少し位は好かれるのに、と。

 猫の扱い方だって知っている。猫は餌だけくれて後は放っておかれるのが好きなんだ。向こうから何か要求してきたときだけ、かまってやればいい。無理に触ったり、声をかけたって鬱陶しがられるだけなんだ。とわかっているのに。

 名を呼んで、抱きしめて、他の奴じゃなく自分を見てほしいと願ってしまうオレも、やっぱり馬鹿な人間だって事なんだろうな。

 「知りてぇ? メールの内容」

 くすくす笑いながら振り返る。

 …銀次からのラブコールなんか聞いてどうしろっていうんだ。

 「聞きたかねぇよ、そんなもん」

 「へぇ? 興味ねぇの?」

 嘘つけ、とでも言いたそうに笑う美堂。いつもからかわれてる時とは、違う風に胸がむかむかする。

 衝動のままに、美堂の携帯を部屋の隅に投げ捨てて、ベッドに組み敷いた。

 「なっ…何しやがる、猿マワシ!」

 叫んで暴れて携帯に手を伸ばそうとする美堂の姿が、オレより銀次を選ぶように見えて、そうなんだとわかってても嫌な気分だ。

 「離せ!」

 睨みつけられると、嬉しくなる。美堂の瞳に自分が映っている事が…重症だな。

 体に手を這わせ、口付けると、美堂は嫌がりながらも快楽に、この腕の中に落ちてくる。

 わかってる…オレとは遊びで、こいつが見てるのはいつだって銀次だけだ。

 なのに、半ば無理矢理でも、抱くとオレの体に回される腕が、気が向くとしてくる口付けが、オレに錯覚させる。

 いつか、こいつの心まで手に入れられるんじゃないかと…。

 

☆☆☆

 

うん、力いっぱい錯覚です。