王波児(ねこ)

 蛮のどこが気に入ってるって、もちろん容姿も好きだが、やっぱりあの二人きりの時に見せる弱さかな。

 なんでオレには弱みを見せてくれるのかわからんが…やっぱり、父親とか思われてるのか?オレは(苦笑

 まあ、裏の仕事上、いろいろ知ってるのと、年が離れてるのがいいのかもなぁ…。

 あとは安全に眠れる場所を持ってる事か…。

 なんだかいい様に利用されてるような気もするな。楽しんでるからいいけどな。

 

 もう閉店の時間近くになって、蛮が一人でふらりとやってきた。見るからに気だるい雰囲気を纏ってる…ヤバそうだな。

 「波児…薬くれよ」

 いつものカウンター席に座り込んで、落ちてしまっている髪を掻き上げながら、じっと俺を見上げて呟く。

 幸いにしてサングラスをかけてるオレには視線は合わないが…計算づくじゃないその視線は縋るようで…たまらないな。

 それでも、一応はぐらかしてみる。

 「胃薬か? それとも軽いヤク?」

 「フェノバール」

 「…あれは強いからダメだって言ったろ」

 軽いヤクの方がまだマシだ。蛮が言い出したのは前に一度だけ、どうしても眠れないという時に渡した睡眠薬の名前だ。あの時に、強いし依存症も副作用もあるから、これきりだと強く言い聞かせたんだが…やっぱり眠れないとこうくるか。

 蛮は煙草の吸いすぎで、薬が効き難いからな…睡眠薬にも耐性がついちまってるし。まあ、煙草に関しちゃ、あんまり人のことは言えないが。

 「だって、眠れねぇんだよ…っ」

 カウンターに突っ伏して、小さく呟く…その辛そうな声は、いっそ演技なんだと言ってくれ。聞いてるこっちよりも…蛮の方が辛いんだろうが。

 「銀次に抱いてもらったら、疲れて眠れるんじゃないか?」

 「もう試した。けど、ダメだった」

 ああ、ぶち切れてる時ならともかく、普段の銀次じゃ蛮を死ぬほど責めたてるなんて出来ないか。

 「薬がダメなら、売りするから、相手捜してくれ。激しそうな奴で、でも体に傷つけねぇ奴」

 いきなり言われても、やばそうで安全そうな奴なんて見つかるわけないだろ(苦笑

 「オレが相手してやるよ」

 手を伸ばして、頭を撫でてやる。顔を上げた蛮は妙にきょとんとした顔でオレを見た。そういう顔してりゃ、ちゃんと10代に見えるのにな。

 「波児が? 銀次と変わんねぇんじゃねぇの?」

 普段だって、そんなに強くねぇじゃん?って、可愛くない事言うガキだな(笑

 「大人をなめるなよ? 心配しなくても、泣いて許してくれって言うような目に遭わせてやるよ」

 「…うん」

 普段ならそんな言い方をすれば「やれるもんならやってみろ」くらい言い返す蛮だが、これで眠れると安心したのか、こっくりと頷いて立ち上がった。

 「波児…助けてくれよ」

 普段、攻撃的で強気過ぎる程に強気なのに、たまにそんな風だから…どうしようもなく惹かれるんだろうな…。

 約束の印に、オレ達はカウンター越しに口付けた。

 

☆☆☆

 

フェノバールというのは、書いた通り、強い睡眠薬だそうです。
詳しくないので、間違ってたらすみません(^^;