美堂蛮(うさぎ)

 あっちぃ…マジで死にそうにあちぃ…。

 勘弁してくれ…。

 

 「蛮、大丈夫か?」

 「大丈夫じゃねぇ…死ぬ…」

 「蛮は暑いの苦手だからなぁ」

 苦笑してる邪馬人に反論する気にもなれない…。

 「蛮?」

 ぐったり横たわったままのオレに、邪馬人の声の調子が変わる。ああ、心配かけてんな…。

 と、額に冷たいものが乗せられる…気持ちいい……ってでも、これって…手…?

 「気持ちいいか?」

 「うん…でも、なんで冷てぇの?」

 邪馬人の手は、オレよりずっとあったかいはずなのに。

 「蛮のために氷で冷したからなv」

 って、得意そうに無茶なこと言うし…。

 「無茶すんなよ…バカ」

 「う〜ん、確かにちょっと無茶したな、感覚なくなるまで冷したし」

 「どうにかなったらどうすんだよ、そんなバカして…」

 「どうにもならないさ。オレがどうにかなったら、蛮と卑弥呼が悲しむからな。二人がいる限り、オレは無敵なんだよv」

 確かに邪馬人は強ぇけど…自分でするバカは…(苦笑)。

 「お、ちょっと元気出てきたか?」

 ちょっと吹き出したオレに、邪馬人の声が嬉しそうになる。

 「それじゃ、次はこれな」

 さすがに体温が戻ってきてしまった手を退けて、代わりに固いものが乗せられる…ハンカチで包んだ氷か何かか?

 ああ…気持ち良くなってきた…まだ日差しは強ぇけど木陰だし、風も吹いてるし、額も冷てぇし…それになにより、そばにいる邪馬人の気配が……。

 「邪馬人ぉ…」

 「なんだ? 蛮」

 大きな手が髪を撫でてくれる…。人に触られるのって好きじゃねぇけど…邪馬人の手は気持ちいい…。

 「…そばにいてくれよ」

 「ああ。もう少し日が落ちたら、かき氷でも食いに行こうな」

 聞こえなくてもいいかと、小さく言ったオレの言葉をちゃんと聞きとって、頷いてくれる。

 甘えをさらりと受け止めてもらえる心地よさに浸ったまま、オレはゆっくり意識を手放した。

 

 目が醒めると一人だった。

 当たり前だ、邪馬人がいるわけない。

 ああ、でも幸せな夢だったな…。久しぶりに、邪馬人らしいバカも聞けたし。ああいうちょっと子供っぽい無茶したよな…邪馬人ってば。

 そう思いながら起き上がると、そばに何か落ちてるのに気付いた…ハンカチだな。

 風が強いから、どっかから飛んできたんだろうと思いながらも、何となく拾ってみる。

 中になんか…柔らかくなった保冷剤…?って…え…?

 それにこのハンカチの匂い…マルボロと毒香水……まさか…。

 

 「………邪馬人…?」



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☆☆☆

 

包容力があって強くて頭がよくて、蛮ちゃんと卑弥呼ちゃんが大好きなうちの邪馬人兄ちゃんは、根っこのところは子供です。
毒香水の調合は完璧なくせに、うさぎりんご作れないし。
本当に非の打ち所がない人だったら、蛮ちゃんは惹かれなかったと思うしね。