冬木士度(ねこ)

 「そういや、オメー、今度の12日、誕生日だったよな」

 そう言われた時、心底びっくりして、しばらく何も言えなかった。

 まさか、オレの誕生日をこいつが憶えているとは思わなかったから。

 固まったオレに美堂が不審な顔で問いかけてくる。

 「んだよ…変な顔しやがって。違ったか?」

 「…いや、違わねーが…」

 本当に言動が読めねー奴…しばらく付き合ってんのに、未だによく驚かされる。

 と口に出して言えば、「猿に言動が読めるほど、美堂様は単純じゃねぇんだよ」とか言われるであろう事くらいは、わかるんだが。

 「誕生日ってのはめでてぇもんなんだろ? なんかやってもいいぜ?」

 何か上機嫌らしく、「何か欲しいもんあるか?」とか聞いてくる。微妙に含みを感じるが…そこを突っ込むと機嫌悪くなるんだろうな。

 何かって言われても…オレは元々物欲がある方じゃねぇし、金にも困ってない。特に欲しいものなんか思いつかねぇな…。

 という困惑を表情から読み取った美堂が、あっという間に不機嫌になっていく。

 「せっかくオレ様が何かやろうって言ってんのに、何もねぇのかよ?」

 …物でなけりゃ、ないわけでもねーが、誕生日だからってもらえるもんでもねーしな。

 「…なんでもいいのか?」

 「いいぜ? ダメなもんはダメだけどな」

 そりゃ何でもいいとはいわねーだろうが。

 ちょっと考えて、誕生日の間一緒にいてほしいと頼んだ。あと、その間は名前で呼んでほしいと。

 それを聞いた美堂は、願う相手が違うんじゃねーの?とあきれたようだったが、それでもOKしてくれた。

 

 意外に律義な美堂が誕生日当日になる頃、窓からやってきた。

 しばらく部屋でごろごろしていたが、屋敷の連中が起き出す前に部屋を出た。マドカには一日いないと先に言ってある。ちょっと淋しそうな顔で、じゃあパーティは後日に、と言うマドカにすまないとは思ったが、美堂と居る事を選んでしまったんだから仕方がない。

 別にどこに行くあてがあるわけでもなく、二人でぶらぶら歩いた。普段も別に話す事があれば話すが、なければないで長い事黙っていたりするから、特に時間を持て余すという事もない。

 適当な時間に店に入って、オレの奢りで食事をして、また適当に歩き出す。

 美堂はつまらないのかもしれないが、別にいつもと変わらず、諦めているのか悪態も少な目だ。

 ああ、いつもと違うところもあるな。頼んだ通りに名前で呼んでくれてる。

 それほど頻繁に呼ぶわけじゃねぇが、呼ばれる度にどきどきする…なんて事は、美堂は気付いているんだか、いねぇんだか。呼び慣れていないはずなのに、一度も「猿マワシ」と言いかけることもなく、あの独特の声音で「士度」と呼びかけてくる。

 あの時に、これからずっと名前で呼べと言ったら、叶えられたんだろうか。…いや、「笑わせんな」とか言われるのがオチだな、多分。

 適当な時間にホテルに入って、してる間もちゃんと呼んでた…しかも、泣きじゃくるような声で。……当分、耳から離れねぇな、あの声は。

 しばらくうとうとして時間切れ直前、美堂が帰り支度をしながら言い出した。

 「士度、プレゼントにいいこと教えてやろうか」

 あ? いいこと? …何か、微妙に嫌な予感がするのは、美堂が楽しそうなせいか?

 「なんだ?」

 「オメーの好きな奴も、オメーがそいつを思うくらいに、オメーのことを好きだと思うぜ?」

 「…あ?」

 「じゃあな…猿マワシ」

 時間切れを言い渡すように美堂は最後にそう呼んで、部屋から出ていった。

 って…なんだって? オレが好きな奴もオレのことを好き…? 美堂がオレを好きだって事か? いや、まさか…美堂はオレがマドカを好きだと思ってるんだろ…って事は、マドカがオレを好きだって? って、なんで美堂に楽しそうにそんな事言われなきゃならない? それに、だから「何」だ? 自分よりもマドカと付き合えってそういうことか? にしたって、何で美堂は楽しそうにそんな事を言う?

 …誕生日ってのは、嘘をつかれる日とか、そんなんじゃねぇよな…?

 

☆☆☆

 

ごめん、士度。私にも謎だ(ぉぃ
まあ蛮ちゃんは士度が自分を好きだとは思ってないから、やっぱりマドカちゃんのことなんだろうな。
「知らないだろうけど、オメーら、両思いなんだよ」って親切に教えてくれたのかな〜?(かな〜って…