美堂蛮(ねこ)

 オレがわかんねぇって?

 そりゃそーだろーなぁ…オレは言わねぇ事が多いからな。

 

 ちっ…銀次の奴と喧嘩しちまったぜ。今、銀次はいねぇ、スバルから飛び出して行っちまった。

 原因は…まあ、オレのせいなんだろうな、あいつの苛立ちもわかんなかねぇんだよ。んでもってオレの言い分ってヤツは…説明できねぇんだから、納得できるわけもねぇよな。

 あいつの言い分は、『なんで自分にはあまり抱かせてくれないのか』『どうしたら他の男に抱かれに行かないでくれるか』『何か不満や望みがあるなら言ってほしい』…そんなとこだったか? 感情的に言い争ったせいで、内容をあんまり憶えてねぇや。

 オレの望み…? 望み…永遠…か? いや、永遠じゃなくたっていい、少なくともオレより先に大事な存在が消えるのが嫌だ。もう二度と…置いていかれたくない。んなこと、銀次にも誰にも言えねぇけど。

 オレがいろんな奴に抱かれんのは、しょーがねーだろ、そういう体質なんだからよ。文句は夏彦に言えよ。相手を一人に決めない理由? まあ…理由の一つとして、その方が相手に遊びだってわかりやすいからかな。一人とだけ遊んでんと、勘違いするかもしれねぇし。それに何人もいた方が、気が向いた時に誰か捕まんだろ。あとはワンパターンになんねぇってのと……まぁいいや。そんなとこだな。って銀次に言ったところで納得しねぇんだろうなぁ…。

 であとは…銀次にあまり抱かれない理由…か。そうだな…夏彦よりはるかに、猿マワシよりも回数少ねぇかもしれねぇな、もしかしたら。

 『オレ、そんなに下手? 満足できない?』

 はっきり言っちまえば、すげー巧いってわけじゃねーよ。しゃーねーわな、こればっかりは経験が少ない奴はどうしたって。でも…言わねーし、他の奴とやってる時のオレなんか知るわけないんだから、わかるわけねぇけど、銀次とするのはスゲー感じる。わけわかんなくなるくらい、めちゃくちゃ感じまくってんだぜ。

 銀次とすると、セックスはテクじゃねぇって、ほんとに思う。相手がオレをどれくらい欲しいと思ってるか、オレが相手をどれくらい欲しいと思ってるかで決まる。燃え方が全然違ぇからな…他の奴にヤられたって、もちろんイケるぜ? そういう風に慣らされてるからな。でも満足度は全然違う。

 いろんな奴に抱かれる理由にもう一つ追加。銀次以外なら、誰とだって同じだからだ。『銀次』か『銀次以外の奴』か、どっちかでしかねぇんだ。

 …そんだけ特別なのに、銀次が求めてきてもあまりOK出さねぇのは…ぜってー言わねぇけど…怖ぇから。

 今までオレが望んだものは、手に入らねぇか、入っても手から擦り抜けちまった。

 多分もう、最高に愛した邪馬人と同じくらい、銀次の事は好きだと思う。この上、体まで銀次相手じゃなけりゃ反応しない程になっちまったら……そこまで溺れたら、きっと銀次を失くす。今だってかなりヤバイくらいに囚われてる…けど、まだオレにも銀次にも不安があるから、多分まだ平気だろう…どこまでいったら失くすのか、基準なんてわかんねぇけど。

 邪馬人の時には、不安なんかなかった。抱かれる事はなかったが、全身全霊で邪馬人に溺れてた。邪馬人しか見えてなかった。そばにいた卑弥呼さえ、『邪馬人の妹』でしかなかった。もちろん、嫌いじゃなかったし、今だって嫌いじゃねーけどな。

 絶対手を離す気なんかなかったのに―――あの日がやってきて、オレは邪馬人を亡くした。

 もう嫌だ、絶対失くしたくねぇ。オレの隣に銀次がいなくなるくらいなら…

 『オレが銀次を愛してない』と思われてる方がずっとマシだ。



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☆☆☆

 

これくらいどっぷり嵌れる相手に逢えた事は、幸せ…
なんでしょうねぇ……たぶん。