美堂蛮(うさぎ)
今日は台風だ。いつもの通り、何かっつーと使わせてもらってるHONKYTONKの2階に今日も避難させてもらってる。
…マジ、助かるよな。そのうち波児には、何か礼しとかねぇと…。
っとになぁ…いつになったら、部屋借りられんだか…。
真夜中近く、常夜灯だけの明かりの中、ベッドの上に座って何をするでもなく窓を叩く雨の音を聞いていると、そっと銀次が触れてきた。
「…蛮ちゃん」
小さく小さく呼びかけて、一瞬だけ唇を重ねると、抱きしめてくる。
いつもならこの先に起こる事を予測して殴るなり暴れるなりするんだが、今日は何となくそんな気にもなれずに、そのまま銀次の肩に頭を乗せた。
なんだか、雨と風の音のせいか、世界にオレと銀次しかいないみたいな気がする…。
暑いのに、抱きしめられてんのも悪くない…。
「蛮ちゃん…大好きだよ」
何度聞いても気持ちいい言葉…。なんでオレなんかをそんなに好きでいてくれるのかは、さっぱりわかんねぇけど。
「蛮ちゃんは……その、オレの事好き…?」
言い難そうに聞いてくる。まあ、オレは全然そんなこと言わねぇからな。聞きたくなる気持ちはわかるけどな。
オレが銀次を好きかって? 好き…なんだろうな。銀次がオレのそばからいなくなる、って想像しただけで…なんつーんだろうな、心が冷えてくるっつーか、体が末端からゆっくり石になっていくっつーか…そのまま、死んじまいそうな気がするから。
きっと、銀次が他の奴を選んだら、生きていられないだろうな…それくらい囚われてる…。
邪馬人が死んだ時には、それでも生きていられた。死にたかったけど、死にたいほど辛かったけど、それでも託された邪馬人の願いを支えに、死なないでいられた。
でも、銀次が死んだら…銀次がどこにもいなくなったら―――
「…蛮ちゃん?」
きっと銀次の死を現実だと認識した瞬間に、オレの心は砕け散るんだろう。
「ぁ…ごめん。ごめんね、蛮ちゃん。オレ、つまんない事聞いて…っ」
腕を緩めて、オレの顔を覗き込んだ銀次が慌てて謝って、今度はきつく抱きしめてきた。
「ごめんっ、だから…そんな顔しないで」
顔…? オレがどんな顔してるって?
「銀…次?」
「蛮ちゃん、大好き。世界で一番大好きだよ」
「…ああ」
気持ちいい声、気持ちいい言葉。銀次の体温、銀次の匂い。
それらに包まれながら、目を閉じて、オレも銀次の体に手を回した。
☆☆☆
多分、銀次がいなくなったら、うちの蛮ちゃんは生きられません。
すべてのことが意味をなくすので。