SAKANA-GIRL

 これはねぇ…罰なんだよ。蛮。

 そう言ったら、きっと悲しそうな傷ついた顔で、それでも仕方がないって、君は笑うだろうね。君は自分がたくさんの罪を抱えていると思っているから。そのせいで罰を受けるのは仕方がないって。

 でも僕が言ってるのはそんなことじゃない。

 

 ああ、相変わらず君は綺麗だね。

 今の状況じゃろくな手入れも出来ないだろうに、黒い髪は昔のままにさらさらだし、白い頬も昔のまま…でも、ちょっと白すぎるね。よく見ると、青白いって言った方がいいくらいだよ。あの頃はもうちょっとピンクがかってたと思ったけど…。

 やっぱり、生活が悪いからだね。銀次君は悪い子じゃないけど、一緒に生活するにはどうかと思うよ。仕事も強ければ上手くいくってもんじゃないしね。

 あのまま、うちに居ればよかったんだよ、蛮。そりゃ夏彦に玩具にされるのは嫌だっただろうけど、それだけ我慢すれば、衣食住は完璧だったし、君の好きな本もたくさんあったし。裏稼業に入って怪我をする事もなく、万一何かあっても、僕達がちゃんと護ってあげたのに。

 ああ…でも、そうだね。蛮だけを責めちゃいけないね。僕がもっと強くて夏彦を抑えつけておけば、きっと君はあのまま、ずっと僕のそばで穏やかに笑っていてくれたのにね。たくさん、本の話をしたよね。君と僕は本の好みも合っていた。好きな本について話していたあの時間が、僕は大好きだったよ。

 ごめんね、蛮。夏彦を抑えつけて、君をちゃんと縛っておけば、僕達は離れ離れになる事も、君の隣に銀次君が立つ事も、君がこんな罰を受ける事もなかったのにね。

 

 綺麗だよ、蛮。君は、自分の外見を全然わかっていなかったみたいだけどね、今も昔も。

 細い首筋も綺麗だし…僕がつけた跡が、白い肌に映えて綺麗だよv

 あ…そういえば、昔のイヤーカフス、まだ大事に付けていてくれたんだよね。嬉しいよv

 お揃いがいいって、蛮がねだってくれたんだもんねv あんまり我儘言ってくれなかったから…あの時はすごく嬉しかったなぁ。

 僕と同じ左耳に付けてたのを右にしたのは、ピアスをするため? 右耳だけにピアスって、ゲイだっていうもんね。蛮はゲイじゃないもんね、体は男なしじゃいられないけど。

 それは夏彦のせいだって、言うかな? でも…僕の蛮を好き勝手にしてたのは許せないけど、蛮の体を開発した事自体は間違ってないと思うけど…?

 だってさ、蛮は全然自覚ないみたいだけど、蛮てば、無意識に男を誘ってるとこあるから。って言うと、『誘ってねぇ!』って怒ると思うけどさ。でも周りの人に聞いてごらんよ。って、もうそんなチャンスもないか。

 家に居た頃からそうなんだもん…今じゃ、あの頃の幼さもなくなって、余計に色っぽいよ。手足もすらりと伸びてさ…腰もこんなに細くて。まあ、あの頃の子供っぽさの中に時々覗く艶っぽさとか、昼と夜のギャップもまたよかったけどね。

 だからね。無意識でも誘って襲われた時に、痛いだけより気持ちいい方がいいだろう?

 もちろん、襲った奴なんか許せないけどね。蛮さえよければ、そんな奴等死んだ方がマシだって目に遭わせてくるけど? …蛮は望まないよね、優しいから…。

 嫌だと思わずに、楽しんじゃえばいいのに。蛮は気持ちいいって感じられるだから。女の人だって、そうそう蛮ほど気持ちよくなれないんじゃないかなぁ…? よくわからないけどさ。

 でもまあ、そこで楽しめないのが、蛮らしいけどね。らしくもあるし…そこがまた、嗜虐心をそそるって言うかね…。嫌がってたのが、感じ始めて乱れていく様って、すごくクるんだけど。蛮にはわかんないかな。

 さっきもずっと、『嫌だ、なんで』って言い続けてたね。合間に僕の名前を呼びながらv

 蛮てば笑顔もいいけど、泣き顔もまた犯罪的だからなぁ…そういえば、さっきもずっと泣いてたね。後半は気持ちよすぎて、みたいだったけどv

 ああ、やっぱりまだ瞳が濡れてるね。ごめんね。大好きだよ、蛮。でもこれは罰だからね。

 ああ…蛮はどこもかしこも綺麗だけど、やっぱりこの世で唯一のその瞳が最高だよ。そんな綺麗な色は見たことがないよ。

 蛮…? 何で僕を見てくれないの? 酷い罰を与えたから、怒っちゃった?

 …いいよ、こっち向いてくれないなら、僕が蛮の視線の先に行くから。ほら…これで蛮の綺麗な瞳には僕しか映ってない。

 もう他の誰も見ちゃ駄目だからね。これから蛮は僕とずーっと一緒に居るんだよ。銀次君がもし来たら、そう言おうね。

 蛮にはそんな事言えないかな…? 銀次君を捨てるような事…じゃあ、僕が言ってあげるからね、大丈夫だよ。蛮は僕と居るんだから。銀次君が文句言ったら、力ずくでも納得してもらう。雷帝になったら勝てないだろって? 絶対勝つよ。蛮のためにね。

 大好きだよ、蛮…v 蛮はこうして髪を撫でられるのが好きだったよね。

 って…あれ。蛮、冷たいよ。冷えてきちゃったかな? お風呂は…動けないから無理そうだね。じゃあ、僕が拭いてあげるから、ちょっと待ってね。

 ごめんね、もっと早く綺麗にして服を着せてあげればよかったね。蛮って1回冷えると、体温がなかなか元に戻らないんだよねぇ…。まあ、僕が抱きしめて暖めてあげるからいいけど。

 蛮は気絶してたから知らないだろうけど、夏彦にやられまくって失神した後も、こうやって僕が拭いてあげてパジャマを着せてあげたんだよ。夏彦はそんなの全然しないから…まったく。

 さ、これで綺麗になった。で、服は……って、蛮。そんなに突っ張ってたら服を着せてあげられないよ? もう…じゃあいいよ。僕の体温をわけてあげるからねv あとは一緒に布団被ってれば、あったまるよ。

 …これからずっと一緒だね、蛮。すごく嬉しいよ。だって僕はずっと前から蛮が好きだったんだから。

 蛮がうちに居た頃からかって? 違うよ、もっと前。何億年も前だよ。

 冗談に聞こえる…? ああ、本当に蛮は綺麗に忘れてしまったんだね。まあ、だから罰を与えたんだけどね。

 僕達はね。初めて僕達って存在ができた時から、何度も何度も数え切れないくらい生まれ変わっては、出逢ってきたんだよ。ずっと、恋人同士だったんだよ? なのに…今回は僕を忘れた上に、銀次君の手を取って…。

 最初はね、忘れた事は許そうと思ったんだ。そばに居ればそのうち思い出すからって。でも、君は逃げ出した。逃げ出して他の人を選んで、未だに僕を思い出してない。

 僕が、蛮の恋人なのに。ずっともう決まってることなのに。

 だからね。これは僕を忘れた罰なんだよ、蛮。怖かった? ごめんね。

 でも、もう酷いことなんかしないからね。ずっと一緒だよ。そうしたら蛮も絶対思い出すよ。

 僕が護ってあげるから。蛮は嫌なことは何もしなくていいんだ。誰も見なくていい。ずっと家で好きな本を読んでいればいいよ。蛮は本が好きだものね?

 時々は、仕事で家を空けなきゃいけないかもしれないけど…ああ、その時は蛮も一緒に行けばいいね。あ、仕事をさせる気なんかないよ。蛮には裏稼業なんか似合わないし、危ない目に遭わせる気もないから。

 これからずーっと一緒だよ。蛮も嬉しいだろう? 嬉しいよね。蛮は淋しがり屋だから。

 …本当に、冷え切っちゃったんだね。全然暖まらないや。

 少し疲れたね? このまま寝ちゃおう。

 おやすみ、大好きな蛮。

 早く蛮が僕のことを思い出してくれますように…。

 

END

 




あ〜…寒い話(苦笑
「癒し系マスター」のかみぃさんにも極寒というお言葉をいただきました…
(ええ、大文字で、「極寒」、です(笑))
ホメコトバ?(違 いやぁ、照れるなぁ(ぉ

気分が真下に向いてる時に思い付いたもんなんて、
書くもんじゃありませんねぇ…。
(でもそのおかげで少し気分が上向いた気がするから、
それはそれで良かったのかも。って、そのおかげで、
蛮ちゃん酷い目に遭ってますが(^_^;))

最初は実は屍×蛮で考えてたんですが、『雪でも可だな…雪の方が楽か』と思って変えたら、
見事なまでに、はまって、
痛いとか怖いとか言うより、すげー寒い話になりました。あはは。

タイトルの「SAKANA−GIRL」はまた谷山浩子さんから〜v
店で見付けた、何度も生まれ変わって逢っているはずの彼女だと思った魚を買ってきて、
『君が僕を忘れた罰だよ』と言いながら、彼女(魚)を泣きながら焼いて
食べる男の人の歌。
これを聞いて、「これって、(魚とぼかしてあるけど)知らない女の人を『前世の恋人』とか言って、
僕を忘れた罰とか言いながら傷つけてたら、超怖いなぁ…」と思ったのが元。

あと気になるのは、蛮ちゃんの安否だったり…
な〜んか…死んでるっぽいような…
ごめんね、蛮ちゃん。
雪は好きにして満足だろうから、別に壊れてても謝らないけど(ぉ
ああ、でも「雪彦はこんなじゃない!」と思った雪ファンの方にはごめんなさい(^_^;)

20020528