銀次×蛮

 午後十時過ぎ。寝ているように見えた蛮がふと動いて、携帯で時間を確認する。

 頃はよしと見て、隣の銀次が穏やかに眠っているのを確かめると、そっと起き上がる。

 歩き出そうとした時。

 「蛮ちゃん…」

 声をかけられた。

 「なんだ、起きてたのか」

 半分だけ振り返り、めんどくさそうに呟く蛮を、銀次は淋しく見上げながら、上半身だけ起こして頷いた。

 「うん…出かけるの?」

 「まーな」

 「そっか……蛮ちゃんなら平気だろうけど、気をつけてね」

 それだけ言うと、また横になって目をつぶってしまう。

 「…………」

 また何かうだうだ言われるかとうんざりした表情だった蛮は、銀次のその態度に眉を吊り上げた。

 「何だよ…銀次、オレを捨てんのか?」

 「何言い出すの、蛮ちゃん」

 目を開けると、四つん這いになった蛮が、間近で見下ろしている。

 「オレが蛮ちゃんを捨てられるわけ、ないじゃん」

 「だって、オレが誰と何しようが、興味ねぇんだろ」

 瞳に映る傷ついたような色が胸を締め付ける。拗ねたような物言いまでが、愛しい。

 「ないわけないよ…でも、蛮ちゃん、縛られたり詮索されたりするの、嫌いでしょ?」

 「でも、聞かれねぇのもムカツク」

 「…蛮ちゃん、オレはどうしたらいいのか、教えてくれる?」

 本当に我が侭で、苦笑してしまう。

 前に聞いた時には、いちいちうるせぇ!と怒鳴られたのだ。そうして今回聞かなければ聞かないで、これだ。

 「知らねーよ。テメーで考えな」

 「考えても無駄だよ、オレ、頭悪いから」

 本当にわからない。いつだって蛮のことを考えて、蛮が好きなようにできるようにしたいのに、気まぐれな蛮の気持ちを読み取れずに、すぐに怒らせたり傷つけたりしてしまう。

 「オレにわかるのは、オレは蛮ちゃんが大好き、って事だけだもん」

 それだけが確かなことだった。銀次の行動のすべてが、そこから生まれているのだから。

 「…いつか、お前がオレを捨てる日が来たら」

 ぽつりと言って、蛮は銀次に馬乗りになった。そして、絞めるように両手を銀次の首に回す。

 「―――――っ」

 銀次の体が、びくっと跳ね、茶色い瞳が大きく見開かれる。

 蛮は自分が銀次のトラウマに爪を立てているのを自覚しながら、それでも笑って、指に力を込めた。

 「…蛮…ちゃ……ん…」

 「捨てる前に、オレが殺してやる。お前のその目に、その心に、他の奴を映すなんざ、絶対に許さねぇ」

 銀次の魂に言葉を刻み付けるように、紫紺の瞳を合わせたまま、一瞬唇を重ねた。

 「お前はオレのもんだからな」

 「…うん、オレは蛮ちゃんのものだよ」

 生唾を飲み込んでカラカラな喉を何とか潤すと、銀次はそう言って頷いた。

 満足そうな蛮の笑顔を見上げながら、やっぱり蛮ちゃんは綺麗だなと銀次は思っていた。

 この笑顔のまま、蛮は銀次を殺すこともできるだろう。今だって、ふと気が向けば咬み殺されるかもしれない。それでも最後まで蛮を見つめたまま逝けるなら、それは幸せなことだと思う。

 蛮が完全に自分に興味を無くし、死のうが生きようがどうでもいいと背を向けられるよりは、はるかに。

 「…オメーは、いいのか?」

 蛮は銀次の首から手を離すと、わずかに赤くなった指の跡に口付けて、キスマークに変えてしまう。

 「っ…何が?」

 蛮が刻むと、キスマークというよりはまさに所有印といった方が近いような気がする。

 布越しとはいえ体を密着させて動く蛮にたまらなくなって、銀次も細い肩に腕を回すと、白い首筋に口付けた。

 「んっ…」

 微かな声を上げてのけ反る。その様と、蛮の体臭が銀次の理性を砕いた。

 体勢を入れ替えて、深く口付ける。そしてシャツのボタンを外していくと、蛮が甘えるように両腕を首にかけてくる。

 「蛮ちゃん…」

 目を上げると、蛮は楽しそうに瞳をきらめかせている。そうしてそのまま残酷な質問を投げてくる。

 「お前は、オレがお前を捨てても、構わねぇの?」

 「構わないわけないじゃん、こんなに…大好きなのに」

 綺麗で可愛くて、気まぐれで残酷で、強くて淋しがり屋な蛮。蛮に似た人なんて、絶対にいない。その不現の瞳よりも稀で貴重な、ただ一人の存在。

 「だったら、よ…」

 苦しそうな銀次の反応に、ますます綺麗に蛮は笑って、もう一度口付けろと命ずるように腕に力を込めた。

 銀次に抵抗する術も意思もない。

 思う存分貪って、気持ち良さそうにため息をつくと、銀次の耳元に低く囁きかけた。

 「オレがお前を捨てたら…オレを殺せよ」

 「…いいの? 蛮ちゃん」

 「ああ、他の奴になんか殺させねーけど、オメーになら殺されてやるよ」

 嬉しいか?と目で聞いてくる蛮に、答えようと銀次が口を開きかけた時、携帯が鳴った。

 静かな空間に響き渡る電子音に、そういえば蛮は誰かに逢いに行こうとしていたと思い出す。

 でも今は行かせたくなくて、しかし行かないでほしいとも言えずに、銀次は蛮のシャツを握り締めた。

 うるさいだけの電子音に蛮は一瞬にして不機嫌な顔になると、さっさと携帯を取り出し、ディスプレイも見ずに握り潰すと、静かになったガラクタを放り投げた。

 もうそれには目もくれずに、銀次の首に腕を掛け直すと、綺麗に笑いかける。

 「嬉しいだろ?」

 「うん、すごく嬉しい」

 自分だけに蛮を殺す権利をくれると言ってくれた事も、今行かないでこうして腕の中にいてくれる事も。

 「蛮ちゃん、大好き」

 素直な反応と何度聞いても気持ちがいい言葉に、蛮は幸せそうに笑うと、
温かい銀次の体を抱きしめる腕に力を込め、自ら足を開き誘った。

 「…来いよ」

 「うん…」

 もう何も言わずに、二人は心まで気持ちがいい行為に溺れていった。

 

END

 

「さて、ここはどこでしょう?第3弾」というか、すっぽかされた相手は誰でしょう?かな(笑
師匠お勧めは士度(笑
というか、他に思い付かないといわれた…そうかも。
あと、携帯壊して仕事が入ったらどうするんだとも突っ込みが…(^_^;)
それはそれ、携帯鳴らした奴が悪いってことで(ぉ
読み返しても…やっぱり銀次が受けっぽい…(泣 そんな夢も見ちゃうし…(遠い目
しかし、本当にねこさん気まぐれ…頑張れ銀次(^_^;)
20011122